振り上げたこぶしを降ろす

難苦情事例として、お互いが感情的になっていてどうしようもない事例があげられます。
いわゆる、「お互いにこぶしをあげてしまい降ろすに降ろせなくなってしまう」状態です。
間に入ったセンターとしては、両者が冷静になっていないので、どうにも困ってしまいます。
また、片一方だけがこぶしをあげて降ろさない降ろせないこともあります。
このような事例に対して、どのように対応したらいいのでしょうか。

こぶしを上げる(感情的になっている)対象によって、大きく2つのパターンがあります。
①調査結果に納得がいかない、などの事実関係に対するもの。
②対応が悪い、言葉づかいが悪い、反省がない、ひとごとだ、などの感情に関するもの。

まず、その事例がどちらの事例であるかを判断する必要があります。
そのためには、「相談対応の流れ」で説明したように、相談者の主張を「事実」と「感情」に分けることが必要です。
相談内容を箇条書きにまとめて、「事実」と「感情」、(そして「要望」)に分ける作業をしましょう。
そして、「バランス理論」をしっかり理解して相談者・相談員・事業者の3者がどのようにしたら良好な関係が築けるのかを考えてください。
(参考)
相談対応の流れ・・・WEB連載【相談対応の流れと必要なスキル】
バランス理論・・・WEB連載【バランス理論を理解し、相談現場でのコミュニケーションに活用する】
https://soudanskill.com/web-magazine

①調査結果に納得がいかない、などの事実関係に対するもの
事実関係に関するものであれば、事業者と相談者が感情的になり冷静な話し合いができないときに、センターが間に入って事業者の調査結果を相談者に説明することになります。
当然ながら、相談員が納得できない調査結果に対して、相談者に説明できるわけがないので、まず、相談員・センターが調査結果が妥当なものであるかどうかを判断します。
契約関係のものであれば相談員・センターでも判断可能ですが、製品関係の調査結果になると技術職員や都道府県のセンター・国セン・NITEなどに調査結果が妥当かどうかを相談することになると思います。そのうえで、調査結果に不備や疑問などがあれば追加調査や説明を求めることになります。
相談者へは、最後に説明するか途中経過で説明するかは個別の判断がありますが、「センターとして事業者の調査が十分ではなかったので再調査を求めた」などと相談者に説明した方が、センターとしてきっちり対応していることを示すことができ、相談者の信頼につながりますので、センターとしてやったことはしっかり相談者に説明しておいた方がいいと思います(相談員と相談者の信頼関係を「○」にするバランス理論)。
最終的に結論付けられた事実関係が相談者にとって納得できるものであれば問題なく納まりますが、相談者にとって納得できないものであれば、相談者の事実関係に関する主張は受け入れられないものの、相談者の気持ちを受け入れてあげることで対応することになります(バランス理論)。
なお、相談員には事業者の調査結果を自分の理解として読み取る能力が求められます。それは、知識と論理的に考える能力です。

②対応が悪い、言葉づかいが悪い、反省がない、ひとごとだ、などの感情に関するもの。
調査結果には納得するが、対応のまずさに事業者への信頼関係をなくしてしまい、怒り心頭でこぶしをあげるというパターンですが、こちらのほうが比較的多いような気がします。事実関係にこぶしをあげた場合は事実関係を明確にしてセンターがその結果を担保するというプロセスさえ踏めば基本的にはやれることはないからです。それに比べて、感情にはきりがありません。それをどのようにさばいていくのかが相談員としての力量です。人の感情をコントロールするのは容易ではありません。また、相談員の対応次第では、相談員やセンターに感情をぶつけてこぶしをあげてくるという最悪のパターンもあります。笑い事ではなく、センターへの苦情に転嫁されることも少なくありません。それも相談員の力量次第です。
具体的な方法としては、すでに説明してきた「相談対応の流れ」と「バランス理論」を理解していれば分かると思います。
事実関係には納得しているので感情のバランスを保ってあげればいいのです。「相談者の気持ちを受け入れる」ことがポイントになります。
相談者と事業者が「×」「×」の関係になっているので、この関係を修復するために、相談者に相談員(センター)は事業者に対して「×」(事業者の対応はおかしい)であることを示し、相談員は相談者の気持ちに対して「○」(気持ちはよく分かる)であることを示してあげるのです。すると、間接的に、相談者が事業者に対して「×」という感情が相談員・センターによって認められたことになります(すなわち、相談者の事業者に対する「×」という感情は正しかった「○」であるということです)。そこで、相談者の理解・満足・共感を得ることができるのです。
もちろん、相談者が事業者に示す「×」について、指導的なことをするわけですが、ここでは書きにくい「コツ」や「ツボ」があります。分かる人なら分かると思います。これが、コミュニケーションスキルでいうと、「Win-Winの関係]といいます。機会があれば別途説明したいと思います。
こうして、当初からの決まった事実関係を曲げずに、お互いにあげた感情のこぶしを相談員が間に入ることによって降ろしてもらうことができます。もちろん、その前提として、「相談員と相談者」「相談員と事業者」の間で信頼関係が結ばれているほど楽に解決できます。
ただし、どんなことがあってみ他人の考えを認めない人もわずかにいます。そういう場合は斡旋しようとこだわらず、「あっせん不調」としましょう(カール・ロジャースの2:7:1の法則 2011年10月13日(木))。
日本人は調査結果がおかしくても、感情的な義理を果たせば納得する人が多いです(変な物を買わされても、消費者の苦情に対して事業者が対応のまずさを謝罪し、きちんと説明すれば、返品とならずに買ってもらえることが少なくないです)。それがいいことかどうかはなんともいえませんね。

まとめ
「感情を受け止める」というコミュニケーションスキルが相談員の力量により異なり、難苦情事例をうまくあっせんできるか、泥沼に陥ってしまうかという分かれ目です。
このような事例に対する実務的な研修はあまりないのではないでしょうか。
ないのにもかかわらず、その技能を求められても、どうしたらいいの?というのが相談員の思うところではないかと思います。
要するに自分の力でスキルを獲得しなさいということでしょうか。
新しい相談員資格の検討会で相談員に求められている技能に対して、どのような方法で担保していくのか見守っています。

このサイトではこのようなコミュニケーションスキルに焦点を当てて解説しています。
リアルな研修が可能でなれば、もっと具体的な事例演習もしたいところです。

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相手を否定する

日本人は相手を否定する傾向が強いように感じます。
相手の行動や意見に対して、認めるのが嫌なのでしょうか、ほめることが苦手なのでしょうか。
そして、認めてしまうと敗北感や劣等感を抱くのでしょうか。
とにかく、日常的に「否定」がまわりに渦巻いています。

政治の世界でも、とにかく対立するグループの意見は、まず「否定」から始まります。
与党と野党は対立するので、どこが政権をとっても、この構図は変わりません。
相手を認めて一緒に前向きに考えることができません。
したがって、いつになっても政策が前に進みません。

子育てでも、子どもの意見を否定し、大人の意見を押し付けます。
親は良かれと思っているのでしょうが、それでは子どもの立場に立っておらず、いつしか距離を置かれるようになります。
子どもをほめるのがとても苦手な日本人です。

前置きはこのぐらいにして、相談現場に目を移します

とにかく相談者は自分の「主張を認めてほしい」ということを求めます。
その主張が正しいこともあれば間違っていることもあります。

相談員として、どのような心構えを持って対応すればいいのでしょうか。
以前にも紹介したバランス理論にもよくにています。

相談現場では、すべて思い通りにいくとは限りません。
どうしても相談者の主張を否定しなければならない場面が出てきます。
しかし、その否定の仕方によっては、その対応自体が苦情に発展することがあります。

相手の言動に対する否定の対応・反応としては3種類考えられます。

①「NO」「BUT」
そのままストレートに否定する
NO・BUT・・・それは違いますよ
②「YES→BUT」
相手の主張を認めて受け入れるものの、否定する
YES・・・おっしゃることは良く分かりますが、そうかもしれませんけど、
BUT・・・実はそうではないんですよ、違いますよ

この2種類は読んで字の如しですので、使いやすいと思います。
まあ、①をストレートに使うことはあまりないと思うのですが、②を使うことは日常ではないでしょうか。
しかし、①も②も最終的には相手を否定することになり、おさまらない相談者の感情(怒り)の矛先を相談員の対応にむけてくることがあります。それがセンターや相談員への苦情に置き換わることもあります。
そうなるのはバランス理論でも説明したとおり、自然な行動です。

では、どのように否定を伝えたらよいのでしょうか。

①と②の相談の流れを簡単に書くと
相談者の話を聞く→相談者の気持ちを理解する(YES)事象自体は否定する(BUT)→相談者は怒り出す→何らかの解決方法や相談先を示す(AND)
実は最終的に「AND」が追加されるのです。
どちらにしても、結局は何らかの対応策を示してあげないと納得しませんし、示すことになると思います。

そこで私がおすすめする方法は、「→事象自体は否定する→相談者は怒り出す→」を省略するのです。

すなわち、「YES→BUT→AND」から「BUT」を省略します。

③「YES→AND」
相手の主張を認めて受け入れて、代替案を提案する
YES・・・おっしゃることは良く分かりました。
AND・・・それを解決するために、~のような方法を取ったらどうでしょうか。

どっちにしろ、解決方法を提案することになるのなら、怒りがないほうがお互いに気持ちよく相談をすすめることができます。
センターの範疇でなくて、ほかの機関を案内する場合でも(悪い言い方では、ほかに振る場合でも)
BUT・・・それは消費者センターの業務範囲ではありません。
AND・・・それなら~が詳しい情報や事例を持っているので、的確な解決策をアドバイスしてくれますよ。

理屈は分かると思います。しかし、簡単そうで難しいです。
なぜなら日本人は日常的に否定することに慣れているからです。
口癖のように、「YES→BUT」を使ってしまいます。

発想の転換です。
同じ表現でも相手を怒らせずに対応でき、その結果として顧客(県民・市民・町民)満足度を高めることができます。
応対研修の分野に入ると思いますが、まずは日常会話から練習していけばいいのではないでしょうか。

【「聴く」だけでなく「訊く」ことも」】 花王の講演要旨より

前回紹介した「REPORT JARO 2012年2月号」(https://soudanskill.com/20120223/402.html)から、花王の【「聴く」だけでなく「訊く」ことも」】という内容を抜粋して紹介します。

花王のコミュニケーションセンター(お客さま相談室)で受けた相談についてはデーターベース化され、入力の仕方が階層的にルール化されている。
1日に700~1000件
2010年度が148000件
(2011年度はフリーダイヤルにしたのでもっと増加するだろう)

第1区分
・苦情か問い合わせか
第2区分
・問い合わせ・・・商品に関するものか、販売に関するものか、社会的なものか
・苦情・・・商品不良なのか、対象物へのトラブルなのか
など、もう少しブレークダウンして、切り口で分けたり細部化して入力する
第3区分
・さらに起きた事象内容で細分化・・・申し出者が「これはとんでもないことだ」と高圧的であっても言葉の強さに左右されず、起きている事象によって分類する。

大事なことは、お客様の声から商品の改善、改良につなげていくこと。
申し出に回答して終了ではなく、お客様の思いをしっかり聴いて受け止めること。
また、申し出の背景や、実際に何が起きているのかを正確に捉え、そこをいかに把握するか。
単に「聴く」だけではなく、お客様が言葉に表していないところを引き出して「訊く」ことも大切になる。
これができて、初めて双方向のコミュニケーションが図れる。

WEB連載の「相談対応の流れと必要なスキル」で紹介している内容と共通しています。
分かってはいるけど、実際の相談では上手いこといかないというのはありがちです。だからこそ、基本原則をしっかり理解しておかないと、対応に対する苦情になってしまいます。

消費者センターに相談している理由(目的)を理解する
表面的な言葉でだけ捉えるのではなく本当に望んでいることを引き出さなければ永遠に相談が続く
相談者の主張を事実と感情に分けて考える
事実で希望がかなわなくても気持ちを受け止めてあげる
など、それぞれが何を意味するのか分かると思います。