バランス理論 その2

相談現場でのバランス理論を解説します。

相談現場では相談者が第一であり、相談者を中心に考えます。
相談者の対象とするものは、事業者への苦情です。
関連する項目としては、消費者センターや相談員となります。

前回の関係でいうと
私が相談者
相手のAさんが消費者センターや相談員
対象のBさんが事業者
この三者の関係になります。
最終的には、私(相談者)が「快」の状態になれば、相談対応に満足したものと考えられます。一方、「不快」の状態になれば相談対応に不満足であったということになります。

すべての相談を「快」にするのは難しいかもしれませんが、可能な限り「快」にできるように努力したいものです。
そして、思った以上の「不快」が実は「快」に変えられるということも知っておいてください。

今までの内容を読んでいただいたら、おそらく理屈的には簡単に理解できたでしょう。
思ったことを、いかに実行できるかが相談員の能力となります。

相談現場での最初の3者の関係は分かりやすいですね。
相談者→事業者・・・(-)
相談者→相談員(消費者センターを含む。以下同じ)・・・(+)
相談員→事業者・・・(?)

相談者は消費者センターを信頼して助けてくれて味方になってくれるというのが前提ですので、「相談者→相談員」の関係は(+)となります。
そして、問題は最後の「相談員→事業者」の関係です。
バランス理論も何も当たり前の話ですが、「相談員→事業者」が(-)、すなわち、消費センターが相談者の主張を認めて、事業者は悪いので、あっせんして取り返しましょう、とすると、(-)×(+)×(-)=(+)となり、相談者は「快」の状態になるのです。

しかし、相談員が相談者の話を聴いてみると、「それは事業者の言うとおりで相談者に責任がある」、とした場合、すなわち、「相談員→事業者」が(+)とすると、(-)×(+)×(+)=(-)となり、相談者は「不快」の状態になるのです。当たり前といえば、当たり前ですね。このままでは、あっせん不調になり相談者の不満がたまってしまいます。

では、どうすればバランスの取れた「快」の状態になるのでしょうか。
前回説明したように、何かが変わればいいのです
つまり、相談員が相談内容について消費者センターとしての考えや一般的な考え方を相談者に分かるように説明し、理解してもらうのです。そうすれば、最初は事業者がおかしいといってたことが、それだったら事業者の言うことも分かった、となり、「相談者→事業者」の関係が(-)から(+)にかわるのです。
相談者→事業者・・・(-)→(+)に変化
相談者→相談員・・・(+)
相談員→事業者・・・(+)
(+)×(+)×(+)=(+)となり、相談者は「快」の状態になるのです。

「相談者→事業者」の関係を(-)から(+)に変化させることが一番重要なんです。
ところが、「(-)から(+)に変化させる」というのは言い換えれば、「説得する」ということです。
実はこの「説得のコミュニケーション」は一つの難しいスキルであり、そう簡単には会得できないし、会得できれば、相談員としての資質もハイレベルのものとなります。
相談者を(-)から(+)に変化させることができずに怒らせてしまうのは、もっと先を見れば、「説得のコミュニケーション」のスキルが不足していることを意味します。
それはそのとおりですよね。相談者のいうことが正しいと受け止めて、事業者にカツをいれて、取り返してあげることができれば、相談者とのコミュニケーションにおいて、不快な部分は全くありませんね。いつもいつも、そのとおりにいけば楽なんですが、現実は違います。

さて、相談にが相談者を「(-)から(+)に変化させる」ことができなかった場合に、相談者はどうすればバランスの取れた状態になるのでしょう。
もうお分かりではないかと思います。
「相談者→相談員」の(+)の関係を(-)に変えればいいんです。
そうすれば
相談者→事業者・・・(-)
相談者→相談員・・・(+)→(-)に変化
相談員→事業者・・・(+)
(-)×(-)×(+)=(+)となり、相談者は「快」の状態になるのです。
しかし、この「快」の状態というのは何を意味するのでしょうか。

信頼して相談に来た消費者センターを(-)にするのですから、「役に立たない消費者センター」「税金泥棒」「マスコミに訴える」「投書する」「上部の組織にいいつける」「他のところに相談に行く」となってしまいます。
どうしても、こうならざるをえないこともありますが、上手に説得して、こうならないようにしましょう。

もう一つ追加しておきます。
相談者→事業者・・・(-)
相談者→相談員・・・(+)
相談員→事業者・・・(+)
この不均衡な状態に対して、相談者が、あくまでも「相談者→事業者」の(-)を主張するために、「相談員→事業者」の(+)を(-)に変化させようとするのです。つまり、相談員の説明に対して、納得していない、なぜそうなるんだ、とねばります。そして、最後には「他の相談員に代われ」「所長に代われ」となります。対応する人が変わると、「相談員→事業者」の(+)が(-)に変わるかもしれないと期待するんです。もちろん変わるわけはないですよね(変われば相談いの対応が間違っていたことになります)。
心理学的に考えれば、「他の相談員に代われ」「所長に代われ」となることは、誰にでも起こりうるし、特に、相談者が悪いからこうなるわけではなく、心理学の自然な流れであるいということも理解できると思います。
相談員にとって、「他の相談員に代われ」「所長に代われ」といわれ、最終的に、代わって説明して相談者が納得した場合に、それが「説得のコミュニケーション」のスキルが不足していたことに由来しているのであれば、相談員として屈辱ですね。しっかり、どうやって説得したのかを事後検証してスキルを学びましょう。

最後に、
相談者→事業者・・・(-)
相談者→相談員・・・(+)
相談員→事業者・・・(+)
この不均衡な状態のまま、このバランス関係の内容をすりかえて、相談者に納得してもらう(分かってもらう)方法があります。事実ではなく、感情で関係を改善する方法です。それについては別の機会に書きたいと思います。

(平成23年5月18日 初稿)
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バランス理論 その1

「バランス理論」という聞きなれない言葉ですが、心理学の用語で、相談現場でも非常に有用です。
知らず知らずのうちに使用しているかも知れません。

「私(相談員)は間違いなく正しいことを相談者に説明しているのに、相談者はなぜ分かってくれないのだろうか?」
そんなときに、
「相談者の理解度が低いからだ、相談者か過剰な要求をしているからだ、私(相談員)は悪くはない」
とおさめてしまうことがあります。

実は、これはお互いのコミュニケーションの不足からきているものです。
その理屈を「バランス理論」で理解し、どんな説明をすれば相談者が分かってくれるのかを考えたいと思います。
「バランス理論」は相手とのコミュニケーションを円滑にするツールですので、知らない場合は是非知っておいてください。

「バランス理論」をネットで検索すると難しい言葉で説明しているものが多いですね。

バランス理論 Balance Theory
バランス理論は、ハイダー(Heider,F.)が対人関係の原理の一つとして提唱した理論。他者や対象を評価する際、それと関係した第3の項を含めた均衡状態が重要であるとする。人間はバランス状態を好む傾向があり、もし不均衡が生じたならば、不快な緊張状態に陥り、不均衡の解消と均衡を追及する働きが生じると仮定。
三項とは自己(P)・対象(O)・関連する項(X)であり、態度はそれらを結ぶ+か-のリンクで表現される。心理的に均衡状態(3つの積が正)は快であり、不均衡状態(3つの積が負)は不快である。三者間の関係が均衡していない場合は、いずれかの評価を改めることで均衡状態に収束する。

図で説明するのが一番ですが、いろんなパターンがあるので、ネットで「ハイダー バランス理論」で検索してください。

要は、3者の間の関係が均衡している状態を好む、ということです。逆に、均衡状態でない場合は、心理的に不快な状態に陥るのです。
例えば、「私」を中心に考えてみます。
私とAさんがいます。対象はBさんです。
私はAさんが好きで、Bさんも好きです。
しかし、AさんがBさんのことが嫌いであれば、どうなるのでしょうか。
もし、AさんがBさんのことが好きであった場合は、私とAさんの意見が合致し、私は心地よいバランス状態となります。
しかし、AさんがBさんのことが嫌いであれば、私とAさんの意見は合わず、不均衡な緊張状態が生まれ、心理的に不快になります。

理論を理解するために、これらをプラスとマイナスで考えます。三角形の形にするのが実際的ですので手元にメモしてください。
前者は
私→Aさん・・・(+)
私→Bさん・・・(+)
Aさん→Bさん・・・(+)
(+)×(+)×(+)=(+)、この3つの(+)を掛け合わせれば(+)になるので「快」の状態です
後者は
私→Aさん・・・(+)
私→Bさん・・・(+)
Aさん→Bさん・・・(-)
(+)×(+)×(-)=(-)、この3つを掛け合わせれば(-)になるので「不快」の状態です

人間はこの不均衡な状態を均衡の状態にしようとする心理的作用が働きます。
では、どうすれば、バランスの取れた「快」の状態に変化することができるのでしょうか。
方法は2通りあります。
1つは、相手であるAさんに対象であるBさんを好きになってもらい、Aさん→Bさん・・・(+)に変化することです
もうひとつは、相手であるAさんに合わせて、私がBさんを嫌いになるのです。
つまり
前者は
私→Aさん・・・(+)
私→Bさん・・・(+)
Aさん→Bさん・・・(-)→(+)に変化
(+)×(+)×(+)=(+)、この3つを掛け合わせれば(+)になるので「快」の状態になるのです。

もしくは、私がAさんを嫌いになるので
私→Aさん・・・(+)→(-)に変化
私→Bさん・・・(+)
Aさん→Bさん・・・(-)
(-)×(+)×(-)=(+)、この3つを掛け合わせれば(+)になるので「快」の状態になるのです。

もっと具体的に説明すると
私が付き合っている彼氏には好きな歌手がいてる。
私は興味はない(または嫌いである)が、それでは、彼との音楽の話がかみ合わなくけんかになったり関係が悪くなったりする。
そこで、私は彼の好きな歌手や音楽をできるだけ好意を持って聴くようになったところ、その歌手や音楽が好きになった。
彼とは一緒に音楽を聴いたり一緒にコンサートに行ったりするようになり、よりラブラブな状態になった。
こんな経験ありませんか?
実は恋愛にも応用できたりするんですね。

次回は、相談現場での応用について説明したいと思います。

(平成23年5月16日 初稿)
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「信用性は?」の問い合わせ

相談現場では消費者から
「~という会社の苦情はありますか?」
「~という会社の信用性を教えてください」
というような問い合わせが良くあります。

みなさんはどう答えているでしょうか?

個別の事業者の苦情の有無や信用性は公開していません。
個別の事業者の苦情の有無や信用性はお答えしておりません。
このように答えるのが原則論でしょう。
当然ながら、個別の事業者の情報は行政処分などで公になっている事例をのぞいては開示できないことになっていると思います。

さて、このように回答した場合に消費者はどんな反応をするでしょうか?
大きく分けて2通りあると思います。
①なぜ公開できないのか!と逆に文句を言ってくる
②そうですか、分かりました、と相談終了
(③①の説明後から②のパターンもあり)

相談員にとって何気ない日常の受け答えかもしれませんが、私は実は深い意味があるのではないかと考えています。
それを読み取って、消費者に最善の回答を出すことが消費者目線ではないかと思います。

ポイントは
信用性について回答できるかどうかではなくて
「消費者がなぜ苦情の有無や信用性を聞きたいのか」
ということに主眼をおくのです。

その背景には
買った商品が悪かった
買った後に悪い評判を聞いた
だまされているのかもしれない
などの思いがかくれているのです。

杓子定規に考えず、消費者が本当に知りたいのは何かということを考える。
すると、どんな回答をすればベストなのか分かると思います。
まず、「苦情の有無や信用性について答えることができない」という回答について、消費者目線になっているでしょうか

「個別の事業者の有無や信用性は公開していません。」
「個別の事業者の有無や信用性はお答えしておりません。」
この2つの回答は確かに正解ではありますが、相手にはマイナスの印象を与えてしまいます。

言葉の表現・言いまわし( https://soudanskill.com/20110421/203.html)を思い出してください。
もっと別のやさしい答え方はないでしょうか。
とはいえ、否定の答を上手に伝えるのは難しいですね。ハイレベルです。
残念ながら、私もベストだという答えは見つかりませんが、いまのところ、「わからない」という答えがベストだと思っています
(実際、信用できる事業者でも必ず苦情はありますので、苦情があれば信用できないとはならないからです)
そして、相談者がその答えに対して不快感を出す前に、次の話を進めるのです。
「信用性はわからないというの正直なところですねえ。」「何か買われた商品に問題があったり、勧誘されたのですか?」
と質問にはぼんやりと答ず、先読みする。
焦点を「信用性」から「被害の把握」に切り替えるのです。
これは、逃げの手ではなく先読みです。
おそらく、どちらにせよ、終着点は、「業者とトラブルがあったこと」の相談につながっていく可能性が高いのですから、マイナスで関係が始まるよりも、フラットな状態で始めたいです。
「業者とトラブルがあったこと」が本当に相談したかったことであり、その断片を聞くことができれば、苦情の有無や信用についても、うまく表現できると思います。
たとえば、でてきた事業者名が問題のある業者だったら、解約に向けた方向性にする、問題がなさそうな事業者であれば補足説明を加え正しい情報を伝えてあげるなど。

一番大事なことは、この信用性についての相談に対する被害の表面化です。
相談が早ければクーリングオフもできます。
本当は被害を受けて回復可能なのに、「②そうですか、分かりました、と相談終了」になれば、本来の消費者センターの役目を果たせないことになり、せっかく勇気を振り絞って、相談してきたのに、真意に気づいてあげることができず、手遅れとなってしまうのです。
被害を受けた相談者がすべて直接的に被害のあったことを相談するとは限らず、「信用性について」という遠回りの言葉に代えて相談することもあります。
相談者が本当に相談したいことは何なのかを洞察し、被害を表面化させて、早く解決してあげることが重要です。

(平成23年4月27日 初稿)
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