不利なことも話すことが大切
冷凍食品の事件の中で、濃度を過小に報告していたり、検査方法が適切でなかったり、事業者の事後対応の問題点が報道され、大きく批判を受けています。
都合の悪い情報は公表したくないのが本音だと思いますが、公の場に問題が出た瞬間に、「不都合な情報も含めて持っている情報はすべて話す」モードに切り替えることが大切です。
どっちにしろ、最終的にはすべて公表されるのは常です。
今回の事件は事業者側の製造管理のプロセスにおいて結果的にはきちんとできていなかったというミスはありますが、原因が意図的な混入であれば、危機管理上も把握しきるのは難しいかもしれません。そのような側面から見ると、事業者は加害者でありながら、「被害者」であるという情状酌量の余地=世論の同情を受ける余地もあると思います。
しかし、今回の事後対応のまずさで、同情を受けるような流れも消してしまったのではないかと思います。
検査精度のことにしても、最初から理由を説明しておけば何ら問題はない手法であり、逆に精密検査と迅速検査を同時にやっている点が評価されうることもあったので、そのチャンスを逃してしまいました。
危機が起こる前の事前対応であるリスクコミュニケーションに対して、危機が起きてからの事後対応をクライシスコミュニケーションといいます。後者は比較的準備がしやすい対応であり、どの事業者も適正にコントロールできる可能性があります。一方、前者は15年ほど前に、アフリカでの未知の感染症やO157集団発生、新型インフルエンザなどに対応するため伝染病予防法から感染症予防法に法律改正されて、きたるべき日に備えてリスク対応をしておこうという流れがあったなかで、食品の製造現場ではHACCPのリスク管理手法を採用するなど比較的新しい対応方法です。なかなか難しい面もありますが、クライシス型はそんなに難しいことはありません。今回、その対応がうまくできなかったのが事業者が批判を受ける理由です。
危機が起こってまった場合に大切なことが、適時適切な情報提供です。持っている情報は不利なことも含めて公表することが大切になります。
事後対応が評価された事例として消費者問題の中では「パナソニックのFF式石油暖房機」の問題です。
さて、「不利なことも話す」ことが結果的に悪い方向ではなく、いい方向に向かうという考え方は、相談現場でも共通であることがお分かりでしょうか?
事業者とのトラブルの中で、事業者が明らかに100%悪いということは、あまりなく、どこかで何らかの消費者側の問題点もあると思います。特に、不利な情報は消費者は出したがらない傾向にあります。せっかくあっせんしても、事業者から「消費者の対応の問題点」を指摘されてしまうと、あっせんが難しくなる可能性もあります。逆に消費者側に問題点がある場合もあります。たとえば、センターには何も言ってないけど、事業者に賠償として過大な金品を要求している場合などもあると思います。
特に、事業者は通話内容を録音していることが多いので、消費者側に不利に働くことがあります。
相談員として心がけることは、聞き取り時には、不利な情報も含めてすべて話してもらうようなコミュニケーションが必要ということです。不利なことが交渉にマイナスに働くのではなく、不利なことを含めてベストな交渉方法を導き出すことが重要であり、後から不利な情報が出てきたら、消費者は損をするというだけでなく、センターもあっせんから手を引かねばならない事態にもなりかねないことを説明しておくのです。
事業者への問い合わせのときにも同様に事業者にとっての不利な対応も聞き取ることができればあっせんに大きく前進します。両者の利害は「なんとか解決したい」という点で一致しています。事業者の不利な点も合わせてセンターでうまくあっせんすることがレベルの高い対応につながります。実は難しいのですね。相談員の技能レベルに差が出る部分です。
さらに、上級レベルになると、不利なことを聞かないまでも感じ取ることができるのです。そうすれば、事実確認するのに、誘導的な聞き取りができるので答えにたどりつきやすいです。
現場の相談員がこのようなスキルをどうやって身につけているかということですが、このような技能については、「不利な情報も含めて消費者から聞き取ること」というマニュアルになっており、どのようにして不利な情報を聞き取るのか、何のためにするのか、どのようにあっせんに活かすのか、というところまで言及していることは少ないと思いますし、それに関しての実務的な研修はほとんどないのではないでしょうか。
私自身は相談員にはそういうスキルを身につけてもらいと思っていますし、それに対応した研修なども実施したいと考えています。