消えない請求画面 その1

「アダルトサイトの無料動画をクリックしたところ、請求画面が表示され、消しても再表示されたり、PCを再起動しても表示される」という相談は、今年に入って非常に増加しています。

国民生活センターや各消費生活センターでも頻繁に注意啓発しているところです。

この「消えない請求画面」は今に始まったものではなく5年ぐらい前から始まったものが進化を遂げています。
支払ってしまったという実害の相談よりも、消えないので困っている、どうやったら消すことができるのかという相談の方が圧倒的に多いです。

消費者センターでは「IPAのHPに消し方が説明されていますので参考にしてください」というのが通常の全国共通のアドバイスとなります。そのほかの公的機関でも同様です

私はこの回答はベストの回答ではないと考えていますし、パソコンに詳しければ全くナンセンスな回答であることは常識です。
しかし、一番の正解は、公的機関である消費者センターとしては回答しずらいものなので、次点の回答になってしまうのはやむを得ないことと思います。
正解は正解なのですが、IPAへの誘導に説明不足があれば「請求画面は消えたが、同時に大切なデータが消えてしまった。消費者センターのアドバイスに従ったのにどうしてくれるのか」という苦情にもつながりかねません。

そこで、何回かに分けて、「消えない請求画面」について、相談員として、ぜひ知っておきたいことを説明したいと思います。
これらを理解したうえで、IPAに誘導するときに一言説明を付け加えることができると、一味違った相談員として評価されると思います。

そして、IPAへの誘導は解決方法の一部分です。
どんな研修会でも、それよりも詳しい全体像が詳しく説明されることはないと思います。
これが私の目指している、実践的で現場を重視したスキルアップ講座の特徴です。

・消えない請求画面の歴史と仕組み
・IPAの対処方法は
・ベストな対処方法は
・感染予防法
・検索サイトでの広告の罠
など

※この解説に使う画像は、実際に私のパソコンでウイルス感染させたものを使用します(一部、黒塗りしています)。

携帯電話の料金 その1

消費者センターには携帯電話の料金に関する相談が多く寄せられています。
大きく分けて「料金」に関することと「故障」に関することです。
料金に関しては
・無料のはずが無料になっていない
・パケット料金が高額になっている
・覚えのないサイトの利用料が請求されている
などがあります。
その中でも、機種代金を含む携帯電話の基本料金などの契約プランのトラブルについて、どんな問題があるのか、なぜ問題が起こるのか、どういう対応をすればいいのかについて解説したいと思います。

相談者は「聞いていない」「説明を受けていない」と主張します。
相談員は「それなら説明不足を主張してはどうですか」と助言します。
このような対応について、どう思いますか?

みなさまも携帯電話を購入されたことがあると思います。
そのときに、料金の説明があったと思います。
意外に、しつこいぐらいに説明され、説明を受けた欄にチェックを記入させられます。
不明なことがあれば、質問します。
割引を受けるための有料オプションについても説明され、いついつからは解約してもかまいませんと説明されます。
場合によっては、紙に詳しく書いてくれます。
以上のことは、ほとんどすべての購入者にもれなくされていると思います。
最後に、何か分からないことはありますか?と聞いてくれます。
ということは、きちんと説明しているではないですか。
そのような経験に照らし合わせ、「説明不足を主張してください」という助言が、果たしてベストでしょうか?
「説明した」「説明していない」、「言った」「言わない」の争いになってしまうかもしれません。

こういう争いは携帯電話に限らず消費者トラブルでの定番となっています。
なぜ「説明した」「説明していない」というトラブルになるのでしょうか。
先に述べた実体験では説明を受けているはずなんですが。
まずは、この原因について知っておくことが前提となります。
この原因は「伝えること、伝わること」の記事で解説したとおりのことが起こっていると思われます。

携帯電話の料金トラブルは、「事業者は説明した」→「消費者は理解したつもりで理解していなかった」「理解できなかったが契約した」「適当に聞いていた」などが根っこにあると思います。
つまり、事業者は「伝える」努力はしているが、十分に「伝わっていなかった」ということです。
これは、どちらに落ち度があるのでしょうか。
事業者は説明する義務・責任があります
消費者は説明を理解する義務・責任があります
事業者は分かりやすい説明を心がけていると思いますが、分かるかわからないかは消費者の理解力にもよります
理解できないときに消費者自身が「分からない」と意思表示しなければ、消費者の「分からない」ことが事業者に伝わりません。
もっとも、その場では「分かった」ように感じている場合も多々あります。

最近の消費者問題の難しいところは、情報が複雑化し、理解が難しくなっているのに、消費者がついていけていない、もしくは、ついていく努力をしていないところではないかと思います。
複雑な料金制度を1度の説明で理解することは難しいかもしれません。
実際に完璧に理解して契約している消費者は少ないかもしれません。

私たちは中立の立場といいながらも、消費者寄りの立場で対応します。
とはいいながらも、消費者に「?」と思うことが増えています。
消費者基本法では(事業者の責務等)第5条~第8条の中で

第五条
二  消費者に対し必要な情報を明確かつ平易に提供すること。
第七条
消費者は、自ら進んで、その消費生活に関して、必要な知識を修得し、及び必要な情報を収集する等自主的かつ合理的に行動するよう努めなければならない。

と定められています。
消費者にもっと努力してほしい。昔から努力が不足してきたからこそ、悪質商法の消費者啓発が十分に機能していないのは、消費者が積極的に理解するという努力をしていないからだと思います。
そして、消費者の理解を支援するために消費者センターが役割を果たすのです。

(啓発活動及び教育の推進)
第十七条  国は、消費者の自立を支援するため、消費生活に関する知識の普及及び情報の提供等消費者に対する啓発活動を推進するとともに、消費者が生涯にわたつて消費生活について学習する機会があまねく求められている状況にかんがみ、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて消費生活に関する教育を充実する等必要な施策を講ずるものとする。
2  地方公共団体は、前項の国の施策に準じて、当該地域の社会的、経済的状況に応じた施策を講ずるよう努めなければならない。

消費者が理解していなかったら、すべて事業者の説明不足だと決め付けてしまうのは早計だと思います。
なぜなら、事業者が伝えようとしているにもかかわらず、消費者が理解しようとしていない、または理解できないまま契約してしまうことがあるのです。また、契約後にも契約内容について、じっくり見直すこともしていない場合があるのです。
ここに、消費者の主張と一般論とのギャップが生じます。

そういう背景を理解した上で、相談員として、消費者センターとして、どのように対応したらいいのか考えていくべきだと思います。

携帯電話の料金トラブルで前提として理解しておかなければならない重要なこと
①相談員が携帯電話の料金プランなどの基本的なことについて理解していること
②相談者の契約プランをしっかり聞き取り、どんな契約をしているのか理解すること
この2点です
そして
③この料金は契約どおりであるかどうか確認して相談者に説明する(間違っていることはほとんどないと思います)。
④そのうえで、説明不足といえる要素があるのかどうかを判断する。
このような流れになるのではないでしょうか。

もちろん、意図的に形だけ説明して契約させる悪質業者は問題外ですが、携帯電話に関しては常識的に考えて悪意の販売をすることはあまり考えられません。
ただし、勘違いさせるような広告はないわけではありません(景品表示法上の問題)。

以上、料金プランの総論的な解説をしましたが、次回からは各論的なことについて具体的に解説したいと思います。
主なターゲットは、ソフトバンクの料金プランです。
「月々割」「実質無料」など一見複雑そうに見えますが、基本さえ押さえれば難しくありません。
また、他社もソフトバンクの料金制度を真似るようになりました。
そして、今や当たり前になった2年縛りの契約期間の功罪についても書きたいと思います。

相談者に的確な助言をするために、また、事業者から「間の抜けた質問をする相談員だ」と思われないために、相談員の理解の参考になればと思います。

※その2 からは、一般人の検索に引っかかりたくないので、パスワード付きにさせていただきます。

伝えること、伝わること

伝える ≠ 伝わる
相手に伝えたことが、すべて相手に伝わるとは限りません。
説明する ≠ 理解する

相手に説明したことが、すべて相手に理解してもらえるとは限りません。

この大原則を理解しておくことが重要です。

そんなことは当たり前だと感じるかもしれませんが、実際には難しいことです。
そして、消費者トラブルの多くは、これらが原因となっているともいえるのです。

相談業務の中で、
相談者は「そんな説明は聞いてない」「聞いていたら契約しなかった」
相談員は「説明不足ということで交渉してはどうですか」「説明不足ということでセンターから申し出てみます」
事業者は「きちんと説明したので問題はない」

この無限ループを経験された相談員も多いのではないでしょうか

事業者が悪意を持って作為的に説明しなかった場合は論外ですが、普通の事業者との契約でもよく起こります。
携帯電話や光回線契約などがその代表であり、高齢者の場合に特に見られます。

事業者の主張も、相談者の主張も、基本的には間違いはないのです。
何が問題になるかというのが、十分にもれなく説明したことが、相手に伝わっていなかったり、理解されていなかったりするということです。
このときに、消費者が、「分からない」といえるのかどうかがポイントになっており、高齢者だと、ほとんどが理解できないので何を聞いたら言いのかわからなくなり、理解しないまま契約してしまうのです。
この、「理解しないまま契約してしまう」のは日本人の国民性かもしれません。

結局は、伝え方、説明の仕方に問題があるのです。
誰に対しても同じ調子で説明をするのではなく、相手に合わせた方法で説明するのです。

先の例で言うと、
相談者は「聞いたけれどよく分からなかった、聞いた気がするけど早口で分からなかった、何となく分かった気になっていた、耳が遠くて聞こえにくかった」
事業者は「きちんと説明し、何か分からないことはありますかと聞いたが、特に聞かれることはなかったので理解していると考えた」
となる場合もあります。
それらを前提とするなら
相談員は「消費者に説明したかもしれませんが、どうも理解できていなかったようです」となります。
それでも契約書に判を押しているのですから、消費者としても、もっと自立してほしいというのは私たちの願いです。
しかし、私たちは相談者のために何とか理由を見つけて助けるように努力します。
なんだかやるせない気持ちになることもあります。

相談員は、相談者の話を鵜呑みにして、強気で事業者に挑むのではなく、いろんな可能性(=消費者側の責任)も考慮したうえで、柔らかい言葉で事業者に問い合わせ、確認し、説明不足・理解不足の交渉をしていくことが、「言った言わない」でもめることの多いこの種の事例には必要ではないかと思います。そうすれば、消費者にも責任があった場合の減額交渉も進めやすいのではないでしょうか。決してけんかを売るのではなく、着地地点を見極めながら交渉することが大切です。

そして、最後に肝に銘じてほしいことが、「事業者の対応=相談員の対応」になる可能性があるということです。
「専門用語を分かりやすく伝える 」(https://soudanskill.com/20100801/73.html
でも説明したとおり、相手の目線に立って、相談者と話をすることです。当たり前のことです。
「専門用語を使う、早口で話す、多くのことを話す、例をたくさんあげる」
これらは、悪質業者の手口です。しかし、一歩間違えれば相談員自身もこのようになってしまう可能性もあります。
そして、「理解しないまま契約してしまう」というのが、相談対応に例えると「相談に対する助言がよくわからないまま、礼を言って帰る」というのに対応します。
すなわち、「事業者⇔相談者」「相談者⇔相談員」「相談員⇔事業者」、この三者の関係で同じことが言えるのです。

分かりやすく説明するには、内容を理解し論理的に簡潔にまとめる能力と、どのような伝え方をすれば相手に伝わるのかというコミュニケーション能力が必要です。
これらの能力のハードルはとても高いです。しっかり意識して、相談現場にのぞみましょう。