規制強化の要因

自由と自己責任の下にさまざまな規制緩和が行われてきましたが、近年、規制強化の流れが、大きいところから小さいところまできているような気がします。
消費者問題の世界での権利と義務に似ているように思います。

生レバー(レバーの生食)が禁止になることが決まり波紋を広げています。
業界関係者は、「お店もお客もリスクを承知で食べているのに何の問題があるのか?」と発言する場面もあります。
全く違うと思います。
リスクを承知していないから問題なのです。
消費者は生レバーにリスクのあることを知りません。
おいしくて食感がよく、やわらかいから幼児でも食べることができる。貧血の防止にもなる。
デメリットよりもメリットだけに目を向けているのが自然な行動であり、健康食品の問題や金融詐欺の被害にあっているのは、その行動のあらわれだと思います。
それが問題であることは相談員なら良く知っているでしょう。

リスクを確認する方法は「注意表示」や「重要事項の説明」です。
例えば、生レバーを提供するときに、「このレバーは加熱処理していないためO157等の食中毒菌が付着している可能性があります。特にO157は少量でも食中毒を起こし、重症化することがあり、特に乳幼児では死亡のリスクがあります。生食される場合は、自己責任で食べてください。当店では責任をおいません。」というような注意喚起が必要ではないでしょうか。その約束を果たしてこそリスクを承知したことになると思います。極端な話かもしれませんが、契約書にサインをするのと同じですね。
また、ユッケでは提供にあたって「当店で提供するユッケは国の基準に沿った処理をしておりますので、安心して食べることができます。」等の表示をする。
製品と同じで、リスク(製品の場合であれば事故や誤使用)があるのであれば、こんなことが必要ではないでしょうか。

そして、ユッケの事件で規制が強化された原因は、お店がルールを守らなかったことです。
10数年前にカイワレ大根事件に始まったO157食中毒事件の集団発生で社会問題になったときに、中心部が75度1分の加熱などのガイドラインが出され、また、生食用食肉の衛生基準が定められました。生食用の食肉は生産される工場が数施設とわずかで、出回ることはほとんどなかったのにもかかわらず、自己判断で生食用食肉が出回っていたことです。
きっちりルールを守っていれば、大きな事件が発生することもないし、規制を強化する必要もありません。
ルールを守らないから規制強化をしなければならないという現実があります。

みなさまの身近なことでいえば、
公園・河川敷・海岸でバーベキューをしたあとにゴミに持ち帰りをせずに放置し、行政が何度も注意しているにもかかわらずルールを守れないので、仕方なく、バーベキューを禁止するということが報道されています。
花見でのゴミも同様に問題になり、花見の禁止の声も大きいです。
大量のゴミ。誰が処理するのでしょうか。
犬の糞の放置、はとのえさやり、電車内での携帯電話通話や座り込みなどマナー違反をあげたらきりがないです。
日本人は法律は守るがマナーは守らないような状況です。
飲酒運転や無免許運転など法律も守れない人もいますが、今後も規制強化が進んでいくのではないでしょうか。

あらためて、消費者の権利と義務について、考えてみましょう。
現場におられる相談員であれば理想と現実のギャップにジレンマを抱いてると思います。

季刊ダイレクトセリング

「公益社団法人 日本訪問販売協会」が「季刊ダイレクトセリング」という広報誌を発行しています。
2012年4月発行の118号に「コンプライアンス」のことが特集されています。
その中から、苦情対応研修の知る人ぞ知る柴田さんの記事を取り上げます。

この広報誌はWEBから最新号が閲覧できます。
公益社団法人 日本訪問販売協会
http://www.jdsa.or.jp/
季刊ダイレクトセリング
http://www.jdsa.or.jp/www/jigyo/shuppan-02/mokuji-10.html

特集
コンプライアンス教育をどのように推進するか
法令遵守はもちろんのこと、自主行動基準に基づく日々の業務の励行、高い倫理観に基づくセルフコントロールを含めたコンプライアンスの徹底のためには、販売員に対するコンプライアンス教育が不可欠である。今号ではコンプライアンス教育の重要性と進め方について識者からコメントをいただき、さらにコンプライアンス教育の実践事例を紹介する。

PART1 コンプライアンス教育を推進する決め手は「情報共有」にあり

話し手 柴田純男氏 柴田CSマネジメント㈱代表取締役

Q3 コンプライアンス教育で教えるべきことは何ですか

人間は、自分勝手に解釈する動物です。「自分勝手」は暴走するので、歯止めをかけなければなりません。たとえば、「あなた、私の話を聞いていないでしょう!」と、身近な人から怒られた経験はありませんか。耳がついていても、入ってきた情報のすべてを言われた通り「聞いている」わけではないのです。「耳で聞く」とは言いますが、耳には聞くための器官(鼓膜)があるだけで聞いているのは脳なのです。人間の脳には、自分にとって都合の悪い情報を遮断し、都合の良いものだけを選択的に受け取る機能があるのです。また、聞こえてきた情報を、自分の都合の良いように時にはねじ曲げて解釈するということもします。だから、自分勝手な解釈が入る余地がないように、具体化して教える必要があるのです。

Q5 コンプライアンス教育の成果は、どのように知ることができますか

そのための好材料となるのが、苦情対応事例です。多くの場合、訪問販売の販売員の行動は、本部でうかがい知ることはできません。現場で何を話し、それが相手にどう伝わっているのかは、密室の中の出来事であり、外からは見えないし、聞こえないのです。しかし、リスクマネジメントの根幹は、第一線の現場で起きていることを知ることにあります。ハインリヒの法則で言われるように、1つの重大な違反の背後には同じ傾向の29の軽微な違反があり、その背景には300のヒヤリハット(ヒヤっとしたり、ハッとする事柄)が存在します。その300事例を見過ごせば、必ず重大事故につながります。けれども、販売員1人ひとりの背後に監視員をつけることは到底できません。 ヒヤリハットを知る唯一の手がかりが消費者からの苦情です。ひとつの会社の中で苦情の原因になった販売員の問題行動を共有するだけでは十分ではありません。いま、問題が起きていないからといって、将来的に大きなトラブルが起きないという保証は全くないのです。
コンプライアンスには、対症的コンプライアンスと、予防的コンプライアンスの2つがあります。何かが起きたときの対応が前者であり、起きる前の対処が後者です。そのときに役に立つのが、日本訪問販売協会の相談室からの報告です。その内容が、全会員企業に伝わっているでしょうか。その事例を詳細に調べて、「我が社の訪問販売でそのような苦情が発生したら」とシミュレーションして、その対策を全社で共有することによって初めて、重大な違反の防止につながるのです。
人は、実際に起きた事例を通じてしか、深く学ぶことはできません。事例検討を深め、その内容を全社に発信できるような、キーパースンが必要です。そして、繰り返し学ぶ場を作らなければなりません。人は、忘れっぽいので、学習を繰り返さなければ根付かないので、フォローアップが必要です。

特に、この前段の赤字にした部分です。
相談員として、自分勝手に解釈して暴走すると公的機関としての消費者センターの威信にもかかわります。
まわりの人からのアドバイスを真摯に受け止める姿勢が大切だと思います。
また、後段にある「キーパーソン」。相談員のスキルアップや職場のコンプライアンスを推進するためには「リーダー」がほしいところですね。

私も柴田さんの苦情対応の研修を受けたことがあります。
特に、心理学的な見地からアプローチするコミュニケーションに精通しており、とても勉強になり、実践にも活用できます。
私も相談者や事業者の気持ちを考えたコミュニケーションが重要であることは何度も記事にしています。
今回はコンプライアンスが題材ですが、柴田さんの苦情対応の研修を受ける機会がありましたら、お金を出してでも、ぜひ受講されることをおすすめします。

柴田CSマネジメント
http://www.shibata-cs.com/index.html

携帯中途解約金訴訟 判決 その4(最終回)

今回の判決についての個人的な意見を書きたいと思います。
まず、裁判を起こした平成22年に、「携帯電話の違約金条項の使用差し止め訴訟」(https://soudanskill.com/20100617/53.html)という記事を書きました。
基本的な考えは変わっていないので、そのときに書いたものを参照しながら書きたいと思います。

従来(今も継続していますが)は契約期間に応じて割引する年割りと家族割の2本立てで前者は過去の契約期間に応じて10年で最大25%割引になり、後者の25%割引とあわせて基本料が半額になるというものでした。つまり、以前から同一事業者を長期間使用していなければ、割引の恩恵にあずかれなかったのです。ところが、2年契約を前提にいきなり半額にするというプランが出てきました。とても、ありがたいプランです。ただし、中途解約には違約金が発生するというものです。
このビジネスモデルは、よく考えられていると思います。事業者にとっても、消費者にとっても、中途解約しなければ、メリットの高いやり方だと思います。近年は長期契約で基本料を割引制度が一般的です。これは、長期契約することで基本料収入が確実に見込めるからこそ、割引くことが可能になったもので、当然、問題のない制度だと思います。半額なので1年で元が取れるということですね。
この制度が携帯電話機本体の割賦販売にも応用されています。こちらのほうも苦情相談が多いと思いますが、基本的には問題はないと思います。表示がわかりにくいのは問題ですが。
ただし、2年間の自動更新については私自身は何とかしてほしいと感じています。

今回の判決もあわせて私の考えをまとめると
①解除料の9975円はは不当とはいえない(判決に同意)
②割引前の基本料が「表示価格」で実際は割引後価格が「実質価格」であるとはいいきれない(判決にほぼ同意)
③更新後も同様の解除料の規定を適用するのは疑問(判決に不同意)
④裁判での基本料金の算定方法に疑問(判決に一部不同意)
の3点です

①ほとんどの消費者が契約しているであろう980円プランであれば、1年以上契約を続ければメリットを受けることができます。解約をしなければいいというだけで、1年以内の短期で解約するなど、自己都合以外の解約理由があるのだろうか。
②法人契約など2年縛りの契約をできない契約者も存在すると思います。したがって、割引前価格の契約は実際に存在すると思います。契約者数の数字が出てくれば説得力があるのではないかと思います。
③携帯電話の本体の料金と通信料が分離され、機種代金が高額になり、分割払いのプランが出現しました。
結局、事業者間での競争が激しくなり、機種代金が0円になるものもあったり、キャッシュバックがあったり、昔の0円携帯の時代に戻ったみたいです。する と、機種代金等の初期費用を通信費でカバーしようとして、2年縛りの契約が原資になっているような気がします。最近はパケット使い放題も原資に含まれてい るのではないでしょうか。
そう考えると、初期の販促費を2年契約で取り戻し、更新以降は利益になっているのではないかという思いがあります。
だからこそ、1回目の更新が終わったら、2回目以降の更新の条件は同じにすべきではないと思うのです。裁判の中では更新後の解約期間は明らかではないが、同等とみなすのが相当であるとしています。私は2回目以降の解約期間は必ずしも14ヶ月で はないと思います。学割が3年更新、電池の寿命が2年、故障のリスクを考えると、2年目の次が4年目で同じ9975円は金額は別として期間として不当ではないかと思っています。また、純粋に 通信料だけで考えるべきではなく、機種本体の事情による解約も考慮すべきだと思います。個人的には2回目以降の更新は半分の1年で解除料も半分の4990円にするのが納得ではないでしょうか。
④今回の判決で事業者が出した平均的損害の算出根拠に驚きました。しっかりと根拠が示せるのですね。
それは、「平成21年4月から22年3月までの月ごとの契約者数を単純平均し、割引前後の差額を加重平均すると2160円」、FOMAサービスの各料金プ ランの加入者数をもとに加重平均して算出した平均月額基本使用料は4320円だったということです。これって本当なのかな?
どう考えても、無料通信分が加わっている基本使用料を算定の根拠にしているような気がする。
無料通信は基本使用料からはずして計算すべきではないのか?
もし控訴した場合は、2160円という差額の根拠となる算定方法が適当ではないというところを争点にしても良いのではないでしょうか。さらに、無料通信分も算定根拠にするなら、基本料をかさ上げすることになり、不当利得にもなる可能性もあるのではと思ったりします。
それでも、9975円を下回ることはないと思います。

(参考)メールアドレスが変更してもよいのなら、2年ごとに他の事業者にMNPで乗り換えて、乗り換え特典を利用し、新しい機種を使うことが最もメリットがありますし、同じ事業者でも電話番号とメルアドが変わっても良いのなら解約新規にすれば負担が少なく新しい機種が購入できます。まあ、ここまでやっている消費者はどれぐらいいるのかというところですが。

消費者契約法の団体訴訟のデメリットは一旦判決が確定すれば同じ件で裁判を起こせないということです。
良い結果が出ればいいのですが、悪い結果がでると大変です。
したがって、安易に裁判を起こすのではなく、吟味しなければなりません。
しかし、現実にそこまで充実している適格消費者団体はないと思います。
どこもいっぱいいっぱいの状態だと思います。
ほとんどの裁判は必要な裁判だったと思いますし、判決でも、ほぼ要求が通った形になっています。
しかし、今回は違っています。
本当に今回の裁判は起こす必要があったのかが疑問です。
裁判の判断も十分に予想できたはずですし、一石を投じるために起こすには、団体訴訟ではリスクが大きかったかもしれないと思います。
悪しき判例?を作ってしまったような気がします。

あまり批判的なことは書きたくないのですが、あえて書いたのは、通常の相談業務と共通するところがあるからです。
すなわち、なんでもかんでも不当だと決め付けて事業者と交渉するのではなく、本当に不当なのかということをしっかり議論したうえで、不当であると判断したのなら、声を上げるべきだと思います。
消費者は納得できないことはすべて不当だと主張します。
たとえば、クーリングオフ期間が終了した後は無条件解約はできず、解約金を含めた自主交渉になると説明しても、納得しないこともありますし、店舗販売で購入した商品が自己都合で返品できないという説明に納得しないこともよくある話です。
相談員自身が不当要求するクレーマーにならないためにも、客観的になって、しっかり案件が不当かどうか判断して行動してほしいと思います。

消費者契約法

第二節 消費者契約の条項の無効

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第八条  次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一  事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二  事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の全部を免除する条項
四  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の一部を免除する条項
五  消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
2  前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。
一  当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
二  当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二  当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

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