三者面談の注意点

三者面談とは、事業者と消費者にセンターに来てもらって、センターを交えて話し合いをすることです。
三者面談の目的には2種類あると思います。
①センターが積極的にあっせん解決を図ろうとするもの。
②消費者と事業者の言い分がまったく食い違い手がつけられなくなったので仕方なくセンターで話し合いの場を作るもの。

まず前提として頭においておかなければならないことは、「消費者と事業者には情報や交渉力の格差がある」ということです。
したがって、しゃべりのプロである事業者に消費者は言いくるめられる可能性があります。
そこで、センターは中立の立場であるものの、その格差を埋めるために消費者への力添えをする必要があります
一方、相談員自身も言いくるめられることもありますし、事業者が複数の男性で訪問してくる場合もあり、女性の相談員には荷が重いときもあります。

相談員として、三者面談にあたり、しっかりと準備しておく必要があります。
単に言い分をぶつけ合わせるだけでなく、お互いの主張を整理して、最終ゴールであるあっせんに向かわなければなりません。
その場で判断するのは難しい面もありますので、事前に何が論点になり、どのような展開にもって行き、最終的な落としどころをどうするのか、ということをシミュレートしてから面談にのぞむことが重要です。

①センターが積極的にあっせん解決を図ろうとするもの

この中には、大きく3つのパターンがあり、あっせんするときにはどの類型に属するのかを自覚しておくことが大切です。
(1)両者の言い分がほぼ合致しており、面談して直接説明する
・・・特に問題なし(感情的な発言があっても、反論せず受け止めることが大切)
(2)事業者の言い分が正しく、事業者とセンターで消費者を説得する
・・・消費者へ論理的に理解できるよう説明する。そのために事前に事業者の報告を相談員が理解し消費者に説明できるレベルに落とし込んでおく。消費者の感情的な部分については受け止めることが大切。消費者が納得しない場合は法律相談などの第3者の見解を聞いてみるように助言することもある。
(3)消費者の言い分が正しく、センターと消費者で事業者を説得する(対決する)
・・・法令や過去の事例から事業者に対して毅然として通告し、交渉するための説明を考えておき、事業者に揚げ足取りをされないように注意する。場合によっては、行政処分につながる可能性も示唆する。ただし、一方的な勝利を目指すのではなく、何らかの妥協点を見つけ出すほうが、うまくいきやすい。

そのほかに、事業者や相談者の主張の一部が食い違うことがあります。言った言わないの世界もありますし、録音していることもあります。その発言の一字一句再現して争うことが、果たしてあっせんにつながるのかをセンターとして考える必要があり、細かい言い分の違いがあっても、最終的にあっせん解決できるような方向に持っていくことが重要です。案外、細かい「言った」「言わない」にこだわる相談員や消費者・事業者がいますが、それを突き詰めると、お互いに引けなくなってしまい、あっせん不調という結果になってしまうこともあります。
困難事例のセンターでのあっせんは、両者の落としどころ・妥協点を見つけて、多少の不満はあっても、勝ち負けを決めずに納めることが「Win-Win」の関係になると思います。
センターのあっせんは裁判のように主張の一つ一つに白黒つけるのではなく、全体としてお互いの妥協点を見つけ出して解決することです。
この落としどころのポイントについては別途記事を書きたいと思います。

まとめると、センターとしてあっせんでどのような結論にもっていきたいか、事実関係の確認と妥当性を論理的に説明できるように、事前にシミュレートしておくことが大切で、それぞれの3者の感情のぶつかり合いが起こらないように注意することです。特に、相談員自身は感情的になることなく、冷静に立ち会ってください。また、3者面談の場で一方的な言い合いにないように傍観せずコントロールしてください。

さらに、感情のぶつかり合いになったときに、もしくは、なりかけたときに、結局は事業者のほうがプロですので口は上手く、消費者は言いくるめられまいと感情をぶつけてしまい、こぶしを下ろせないようになってしまいます。あっせんが上手くいかなければ、相談員が、さらに困難になったあっせんを再度しなければならなくなります。
相談員は傍観するのではなく、このような事態にならないように配慮してください。

②消費者と事業者の言い分がまったく食い違い手がつけられなくなったので仕方なくセンターで話し合いの場を作るもの

相談者に「センターは何もしないのか」などと言われ、「相談員が「センターで話し合いの場を作ることができます」とし、基本的には消費者と事業者の2者で話し合いをしてもらい、センターは聞くだけのパターンがあります。しかし、相談者にとって、センターで話し合いをすることは当然センターが味方になって助けてくれるという期待感を持ちます。
センターとしても両者の言い分が平行線のままで、間違いなく「あっせん不調」になることが分かっていたとしても行う3者面談では、最終的に相談者の不満はセンターや相談員に向けられます。以前に解説したバランス理論からも分かるとおり、相談者がセンターの対応を非難することで相談者の感情のバランスが保たれます。センターが攻撃されることを覚悟しておいてください。また、それに対する対応に問題があった場合は、センターの苦情に発展することも覚えておいてください。

最後に争いが考えられる3者面談では、複数の相談員で対応したり、職員に同席してもらうことも必要です。
これは、それぞれのセンターの人的充実や職員のレベルの違い、相談員と職員との温度差により違ってきます。
環境が整っているセンターでは大いに同席を活用していただいたらいいと思いますが、同席が期待できないセンターでは必要であれば都道府県担当者や国センに相談するなど事前準備をしっかりしておいてください。
(以上)

相談員は学者ではなく実務者である

大学の教授は論文を書くことが仕事です。論文が書けないと評価してもらえません。
したがって、法律の解釈などにはとても詳しく、そこから法律上の問題点を見出し、自説を唱えることもあります。

相談員研修で大学教授が講師の場合、法律上のポイントや解釈、問題点、提言などがレクチャーされます。
法律解釈の勉強は奥深く、とても面白いです。
また、講師が弁護士であった場合、弁護士は裁判で戦うことが基本になりますので、法律解釈と理論立てはすばらしいものがあります。

また、そのような講師に事例検討会をしてもらった場合の助言に、法律を解釈すればこのようなことが主張できるので、取り消しできます、ということもしばしばです。
確かにそのとおりなんです。

したがって、そのような研修会に参加すればとても面白く、勉強した気になります。
そこに落とし穴があることは私は何度も主張しています。
もちろん、知識としての勉強ができたことは間違いないのですが、相談現場で使えるかどうかです。

橋本大阪市長がテレビの対談でよく言っている言葉に「あなたは学者でしょ。現実が分かっていない」と言います。
まさしく、相談業務も同じと思います。
理想を追いかけるのではなく、今ここにある問題をリアルタイムで解決しなければならない。

法律を守っていない事業者に、これは法律違反だから契約取消になりますと主張して、素直に話が進むほど甘くはありません。法律を盾にとって、うまくあっせんがいくとは限らないことは相談員なら経験済みだと思います。

逆に、法律などのルールとは全く関係なく、話し合いによって、あっせん解決に至る事例が少なくありません。
そもそも、消費者センターの相談が法律解釈にのっとる相談というよりも、人間関係のコミュニケーションのずれから起こったトラブルのほうが多いかもしれません。

そう考えると、今、全国で実施されている研修は、どこまで相談員のスキルアップにつながるのかなあと思ってしまいます。
このような現実を知った上で、自分の知識を深める研修か、現場力を向上させる研修かを分けて考えて参加してほしいと思います。

では、どのような研修がいいのか。
実はいつでも手軽に内部でできる身近な研修材料はたくさんあります。
リアルな相談事例です。
雑誌に掲載されているような鮮やかな報告も実はどろどろしたやりとりが相談者や事業者とあって最終的に解決した背景もあると思います。
そのような事例を一から検証しなおし、意思の疎通を図る上で障害になったものや、説得によって行動変容を起こしたもの、などをケーススタディ的に学ぶことが現場力をつける源になると思います。
本当はこうしたかったが、実際はこうだった。
実際はこうだったが、本当はこうしたほうが良かった。
センターの対応は間違っていた。
次からは、こうしたい。
などの検証はすべての事例に存在します。
1事例を検討するだけで1時間や2時間はあっという間です。
こういう事例研修を活用してほしいと思います。

ただし、一番難しいのは、適正に判断できる人材がいるかどうかということです。
大きなセンターであれば相談員の数も多く、文殊の知恵作戦ができますが、地方のセンターや一人相談員の現場ではなかなか難しいかのしれませんね。

一方、相談員の資質向上における環境面にも格差があるのは現実です。
今後、基金が終了しても研修に参加できるだろうかという不安は多くあると思います。
ただ、基金を使って多くの研修に参加したけれど、実際に現場で使えるスキルを身につけることができているかどうか検証できていますか。
案外、今までと同じかもしれません。そうなれば、基金の有無に関係なく、相談員の資質の向上について根本的な考え方が現実とGAPがあるのかもしれませんね。

このサイトでは現場力をつけるための知識やコミュニケーション力などのスキルを身につけることを目指しています。
WEBでの限界はありますが、私なりに工夫をしていきたいと思っています。

あなたの常識は本当に常識?

消費者センターは中立な立場でスタンダードを示すことが仕事であると考えています。
しかし、そのスタンダードが難しいのですね。
また、そのスタンダードこそ「常識」ともいえるものです。
基本的には、このスタンダードは変わらないものです。
しかし、人によって、このスタンダードが変わってきます。
「そんなこと常識だ」と私たちは思うことがあります。
しかし、その常識は本当に常識でしょうか?
あなたの思い込みになっていませんか。
これはバイアスについて解説した記事にも共通しています(バイアスを持たないようにする 2010年4月8日(木)

「相談員が思う非常識は消費者にとって常識である」ということを尊重せずして、あっせんや助言は上手くいきません。
消費者の主張を鵜呑みにするのではなく、「こう考えてもおかしくないな」、という心構えを持ち、相談者を受け入れることが相談者との信頼を築く一歩になります。
私たちができることは、スタンダードを示して、消費者の常識を非常識に変えていくという「説得」が必要です。
「説得」とは相手の考えを否定することであり、並大抵の努力では納得してもらえません。
相談員が常識的な考えを説明すれば簡単に理解してもらえると軽く考えると、相手を否定し反発されます。

たとえば、「お店に出向いて買った商品を気に入らないから返品を申し出たら断られた。おかしいのではないか。クーリングオフできるのではないか。」という相談が少なからずあると思います。
私たちは、「当然返品はできないし、返品は自主交渉で、返品や交換はお店のサービスである」という常識を持って相談者に説明しますが、これを、さも当たり前のように説明すると相談者は怒り出します。
消費者教育が十分でない社会では常識力の欠如が存在しています。
それゆえ、相談者の常識を否定し、人格をも否定することにつながるからです。
これをクリアするために「説得」というスキルが存在し、説得のコミュニケーションが必要になってくるのです。

そこで今一度考えて欲しいのは、あなたの常識は本当にスタンダードな常識ですか?
相談者だけでなく、他の相談員や職員や事業者と話をするに当たって、その常識が常識であると十分確認できているでしょうか?

相談員の常識が実は常識ではなかった場合、相談員の常識を否定されることは、先に述べたことと同じ現象になり、相談員の人格を否定することになります。
しかし、大事なことは、反発せず、素直にきける柔軟性があるかどうかです。
説得されるのではなく、気づきをもって自主的に自分の常識を修正してほしいと思います。
自分の常識が常識ではないと指摘してくれる人は貴重な存在です。
大切にしてください。