ヤミ金からの押し貸しの元本返却 その3

ちなみに、前回の不法原因給付ですが、24年度の相談員試験の民法の問題として出題されています。

問題9-⑤(正誤で誤りのときは×を選択)

売買契約が無効であるときは、当事者はそれぞれ、繼退その契約に基づいて代金の支払や目的物の引渡しを請求することができない。また、当事者が、繼鄀無効な契約に基づいて、事実上既に代金支払や目的物の引渡しなどの履行をしてしまった場合には、その返還を請求することができる。ただし、繼鈀不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することはできない


今回が解決方法として最終回となる予定でしたが書いていくうちに思いのほか長文になったので、分割します。

それでは相談現場ではどのような対応方法があるのか考えたいと思います。
いつも言っていることですが、答えは1つとは限りませんし、私の考えが正解だというものではありませんが、一つの考え方として参考にしていただいて、みなさまのスキルアップにつながればと思っています。

相談者の希望要望は何でしょうか?
これがすべてです。
簡単ですね。
複雑に考える必要がないのです。
不法原因給付という知識を持ち出して相談者の希望していない方向へ導く必要はないのです。
相談員として何をすべきかは単純なのです。

相談内容を整理するには事実と感情(希望要望)に分けてロジカルに考えると説明してきました。
一つ一つひも解いていけばいいのです。
事実として
①借金について問い合わせた
②口座情報等の個人情報を伝えた(知られている)
③契約はしていない
④違法金利のヤミ金のようである(推測ではあるが事実に入れておきます)
⑤勝手に口座にお金が振り込まれた
⑥業者側と連絡がつかない
希望要望(感情)として
①契約はしていないし、今後何かいわれるのが嫌なので、お金を返したい

法律に従うと「不法原因給付は返還する必要がない」となりますが、これは相談者の希望ではありません
これを適応することは前回までに説明した行政書士としての戦略になります。
行政書士としては、「なぜわざわざ返還しなければならないのか?」となりますが、消費者センターではしばしば法の枠にこだわらないあっせんを行います。
相談者の希望を最優先して、その解決方法を消費者センターのできる範囲で提示して、相談者の判断をあおぐというのが前提になります。
何度もいいますが、消費者センターというところは、クーリングオフのように法律に則った判断をする部分もありますが、多くは裁判のように明確に白黒をつけるのではなく、お互いの要望を聞きながら妥協点を探り落としどころを見つけ「あっせん」をするところです

この相談者の要望は不法原因給付のお金を自分のものにするのではなく、「今後何か言われるのが嫌」だから「お金を返したい」のです。
この相談者の要望が、消費者センター的に妥当かどうか考えます。

まず相談者に具体的な損害が出ているか?
といえば、利息も返済もしていないので損害は発生していません。
今後何らかの損害が発生するおそれがあるのか?
といえば、業者側から見れば押し貸しをした状態にあるので、このまま放置しておけば、利息を含めた返済をせまられるおそれがあります。
また、契約の有無の議論になっても、通じる相手ではなく、何らかのいちゃもんをつけられる可能性があります。
今のままの状態では、将来的に、相談者の「今後何か言われるのが嫌」という希望がかなえられない可能性があります。

消費者センター的には、この将来的な不安をなくしてあげることが大切になります。
この不安をなくすにはどうしたらいいでしょうか?
そして振り込まれたお金をそのまま返すためにはどうすればいいのでしょうか?

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ヤミ金からの押し貸しの元本返却 その2

前回の続きになります。

このような相談を受けた場合にどう助言したらいいでしょうか

スポーツ新聞の広告でお金を貸してくれる業者に電話して個人情報を教えたところ、契約の了解もしていないのに口座にお金が振り込まれてきた。
法定金利を超えるヤミ金業者のようである。後からトラブルになるのも嫌なので、お金を返却したいが連絡がつかない。
どうしたらよいか?

相談現場でもありがちな事例ですが、みなさんならどのように助言しますか?
ケーススタディとして考えてみてください。

法律の専門家の回答は
「元本も返還する必要がない」
ということになります。

その法律的な解釈は以下のとおりです。

民法・・・http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

第四章 不当利得
(不法原因給付)
第七百八条  不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

参考

最高裁判例

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36427&hanreiKbn=02
平成20年06月10日
判示事項
1 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することの可否
2 いわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で違法に金員を取得する手段として著しく高利の貸付けの形をとって借主に金員を交付し,借主が貸付金に相当する利益を得た場合に,借主からの不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた事例
裁判要旨
1 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,民法708条の趣旨に反するものとして許されない。
2 いわゆるヤミ金融の組織に属する業者が,借主から元利金等の名目で違法に金員を取得して多大の利益を得る手段として,年利数百%~数千%の著しく高利の貸付けという形をとって借主に金員を交付し,これにより,当該借主が,弁済として交付した金員に相当する損害を被るとともに,上記貸付けとしての金員の交付によって利益を得たという事情の下では,当該借主から上記組織の統括者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として当該借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されない。
(1,2につき意見がある。)
参照法条
(1,2につき)民法708条,民法709条 (2につき)出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項

国民生活センターHP
トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > ヤミ金融に対する元本相当額を含む弁済金全額の返還が認められた事例[2005年12月:公表]
http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/200512.html
本件は、貸金業法に定めのある登録貸金業者が、出資法5条所定の利率を大幅に上回る年利1200パーセントという超高金利の貸し付けをした事案である。判決は、この貸し付けが、違法行為の手段に過ぎず、民法上の保護に値する財産的価値の移転があったとは評価できないとして、元本相当額を含む弁済額全額の返還を認めた。(札幌高等裁判所平成17年2月23日判決)
『消費者法ニュース』63号38ページ

解説

平成15年度のヤミ金規制法(注)による貸金業規制法の改正により、年利109.5パーセントを超える利息の貸し付けは無効とする旨が定められた。それ以前から、出資法に大幅に違反する高金利で、貸金業規制法に定める契約書面の交付義務、領収書面の交付義務などを守らない悪質な業者による貸し付けについては、不法原因給付であるとか、公序良俗違反であるとして、貸金業者からの返済請求は認めない判決が多数出されていた。また、こうした貸金業者に対して消費者が弁済した金員について、利息相当部分については返還を命ずるのが判決の流れとなっていた。
本件訴訟で問題となったのは、貸金業登録業者でありながら同法に定める契約書面の交付義務、領収書面の交付義務を守らず、年利1200パーセントもの超高金利で貸し付けていた事業者からの過酷な取り立てによって弁済した金額について、その全額について返還を求めた点である。借入元金相当額についてもすべて返還を認めた下級審判決は複数あるが、本件判決は、高等裁判所のレベルで元本相当額も含めた全額について返還を命じた初の判決として参考になる。
「出資法の罰則に明らかに該当する行為については、もはや、金銭消費貸借契約という法律構成をすること自体が相当ではなく、Yが支出した貸金についても、それは貸金に名を借りた違法行為の手段に過ぎず、民法上の保護に値する財産的価値の移転があったと評価することは相当ではない」として、支払ったすべての金額が不法行為による損害であると認定し、さらにYからXに交付された金銭については、実体法上保護に値しないのみならず、訴訟法上の観点から見ても、Yに利益になるように評価することが許されないとする点は、同種の実務においても参考になる。
なお、本判決については、被控訴人より、平成17年3月8日に上告の申し立てがなされている。
注 ヤミ金規制法:「貸金業の規制等に関する法律及び出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律」

要は、ヤミ金のような暴利をむさぼる不法な貸付は、原本をも返済する必要がない、ということです。
もっとも、実務的には、元本と法定利息を超える返済をしている状況であるものの、すべての金額が不法行為による損害なので元本も含む全額の賠償の請求をしていくことになります。

では、今回の事例について考えると、無理やり貸し付けられたお金については、間がないので返済もしていない状態です。
この押し貸しが法定利率を超える違法な給付であるなら、口座に入金された元本を返済する必要がない、ということになります。

すると、今回の事例は、「法律に違反する貸付なので、元本も返す必要がないですよ」ということで終了としていいのでしょうか?
セミナーの司法書士の先生は、「これでよい、文句を言ってきても対抗できる」と主張します。
法律をきっちり準用する法律家らしい視点ですね。

私であれば、そこまで思い切った回答は出せませんね。
実際に、民法708条に該当する「不法原因給付」の適用に本当に該当するのかという疑問も残りますし、その判断は法律相談ということになるかもしれません。

消費者センターは裁判所のように法律に則った判断をするというよりも、相談者のおかれている状況を勘案して、最も適切な対応について助言(あっせん)するところです。
法律家のような判断をすれば、今回の相談者は不安な毎日を過ごさないといけないかもしれません。

そこで、消費者センター的な対応はどうすればいいのかについて、次回、考えたいと思います。

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ヤミ金からの押し貸しの元本返却 その1

このような相談を受けた場合にどう助言したらいいでしょうか

スポーツ新聞の広告でお金を貸してくれる業者に電話して個人情報を教えたところ、契約の了解もしていないのに口座にお金が振り込まれてきた。
法定金利を超えるヤミ金業者のようである。後からトラブルになるのも嫌なので、お金を返却したいが連絡がつかない。
どうしたらよいか?

相談現場でもありがちな事例ですが、みなさんならどのように助言しますか?
ケーススタディとして考えてみてください。

今回、なぜ今更の話を書いたかというと、先日、簿記の専門学校の記事の中で、
「Tには無料のセミナーや講座の1回目の無料体験入学の制度があり、たまたま行政書士講座の民法のセミナーがあったので受講しました。このセミナーは相談現場でも「なるほど」という話がありましたので別の機会に記事を書きたいと思います。」
と書きましたが、そのときにこの話を先生としました。
実は、このセミナーは参加者が私一人だけだったんです。申し込む気もないのに参加して少し後ろめたい気持ちと、一人居心地が悪い気持ちとで複雑でした。まるで家庭教師のようでしたが、先生は司法書士事務所を開いており、せっかくの機会なので、今回の話などを交えて、司法書士事務所の現場の話も聞いてみました。

結論的には、私の考えとは少し異なる考えでした。それはまさしく、先日弁護士の視点について書いたものと同じような違いでした。

相談員であれば、この話は目新しいものではなく、十分知っていると思いますが、そのとおりの対応を選択するかどうかは様々だと思います。

法律の専門家の回答は
「元本も返還する必要がない」
ということになります。

次回の(その2)で法律的な解釈について、(その3)で現場での対応について考えてみたいと思います。

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