ヤミ金からの押し貸しの元本返却 その2

前回の続きになります。

このような相談を受けた場合にどう助言したらいいでしょうか

スポーツ新聞の広告でお金を貸してくれる業者に電話して個人情報を教えたところ、契約の了解もしていないのに口座にお金が振り込まれてきた。
法定金利を超えるヤミ金業者のようである。後からトラブルになるのも嫌なので、お金を返却したいが連絡がつかない。
どうしたらよいか?

相談現場でもありがちな事例ですが、みなさんならどのように助言しますか?
ケーススタディとして考えてみてください。

法律の専門家の回答は
「元本も返還する必要がない」
ということになります。

その法律的な解釈は以下のとおりです。

民法・・・http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

第四章 不当利得
(不法原因給付)
第七百八条  不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

参考

最高裁判例

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36427&hanreiKbn=02
平成20年06月10日
判示事項
1 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することの可否
2 いわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で違法に金員を取得する手段として著しく高利の貸付けの形をとって借主に金員を交付し,借主が貸付金に相当する利益を得た場合に,借主からの不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた事例
裁判要旨
1 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,民法708条の趣旨に反するものとして許されない。
2 いわゆるヤミ金融の組織に属する業者が,借主から元利金等の名目で違法に金員を取得して多大の利益を得る手段として,年利数百%~数千%の著しく高利の貸付けという形をとって借主に金員を交付し,これにより,当該借主が,弁済として交付した金員に相当する損害を被るとともに,上記貸付けとしての金員の交付によって利益を得たという事情の下では,当該借主から上記組織の統括者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として当該借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されない。
(1,2につき意見がある。)
参照法条
(1,2につき)民法708条,民法709条 (2につき)出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項

国民生活センターHP
トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > ヤミ金融に対する元本相当額を含む弁済金全額の返還が認められた事例[2005年12月:公表]
http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/200512.html
本件は、貸金業法に定めのある登録貸金業者が、出資法5条所定の利率を大幅に上回る年利1200パーセントという超高金利の貸し付けをした事案である。判決は、この貸し付けが、違法行為の手段に過ぎず、民法上の保護に値する財産的価値の移転があったとは評価できないとして、元本相当額を含む弁済額全額の返還を認めた。(札幌高等裁判所平成17年2月23日判決)
『消費者法ニュース』63号38ページ

解説

平成15年度のヤミ金規制法(注)による貸金業規制法の改正により、年利109.5パーセントを超える利息の貸し付けは無効とする旨が定められた。それ以前から、出資法に大幅に違反する高金利で、貸金業規制法に定める契約書面の交付義務、領収書面の交付義務などを守らない悪質な業者による貸し付けについては、不法原因給付であるとか、公序良俗違反であるとして、貸金業者からの返済請求は認めない判決が多数出されていた。また、こうした貸金業者に対して消費者が弁済した金員について、利息相当部分については返還を命ずるのが判決の流れとなっていた。
本件訴訟で問題となったのは、貸金業登録業者でありながら同法に定める契約書面の交付義務、領収書面の交付義務を守らず、年利1200パーセントもの超高金利で貸し付けていた事業者からの過酷な取り立てによって弁済した金額について、その全額について返還を求めた点である。借入元金相当額についてもすべて返還を認めた下級審判決は複数あるが、本件判決は、高等裁判所のレベルで元本相当額も含めた全額について返還を命じた初の判決として参考になる。
「出資法の罰則に明らかに該当する行為については、もはや、金銭消費貸借契約という法律構成をすること自体が相当ではなく、Yが支出した貸金についても、それは貸金に名を借りた違法行為の手段に過ぎず、民法上の保護に値する財産的価値の移転があったと評価することは相当ではない」として、支払ったすべての金額が不法行為による損害であると認定し、さらにYからXに交付された金銭については、実体法上保護に値しないのみならず、訴訟法上の観点から見ても、Yに利益になるように評価することが許されないとする点は、同種の実務においても参考になる。
なお、本判決については、被控訴人より、平成17年3月8日に上告の申し立てがなされている。
注 ヤミ金規制法:「貸金業の規制等に関する法律及び出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律」

要は、ヤミ金のような暴利をむさぼる不法な貸付は、原本をも返済する必要がない、ということです。
もっとも、実務的には、元本と法定利息を超える返済をしている状況であるものの、すべての金額が不法行為による損害なので元本も含む全額の賠償の請求をしていくことになります。

では、今回の事例について考えると、無理やり貸し付けられたお金については、間がないので返済もしていない状態です。
この押し貸しが法定利率を超える違法な給付であるなら、口座に入金された元本を返済する必要がない、ということになります。

すると、今回の事例は、「法律に違反する貸付なので、元本も返す必要がないですよ」ということで終了としていいのでしょうか?
セミナーの司法書士の先生は、「これでよい、文句を言ってきても対抗できる」と主張します。
法律をきっちり準用する法律家らしい視点ですね。

私であれば、そこまで思い切った回答は出せませんね。
実際に、民法708条に該当する「不法原因給付」の適用に本当に該当するのかという疑問も残りますし、その判断は法律相談ということになるかもしれません。

消費者センターは裁判所のように法律に則った判断をするというよりも、相談者のおかれている状況を勘案して、最も適切な対応について助言(あっせん)するところです。
法律家のような判断をすれば、今回の相談者は不安な毎日を過ごさないといけないかもしれません。

そこで、消費者センター的な対応はどうすればいいのかについて、次回、考えたいと思います。

この記事にはコメントを記入することができます。コメントを記入するには記事のタイトルかコメントリンクをクリックして単独で記事を表示してください。