弁護士の見方と相談現場の違い その4(最終回)

「その1」「その2」「その3」を読んでいない方は、まず、そちらの記事を先に読んでください。

続いては、相談者のいう「欠陥」で使えないというのが、本当に使えないかどうかという問題です。
前回

①「欠陥」について
楽天であれば総合5位というのはかなりの販売量です。食品や雑貨が多いので「欠陥」という表現は正確ではないでしょう。「使えませんでした」とあるので食品ではないですね。
仮に、家電品などの機械物として考えたとしても、私たちの世界での「欠陥」ではなく、「故障」「不良品」「初期不良」の分野ではないでしょうか。
一般消費者は、普通の故障を「欠陥」ということが多いので、この言葉を額面どおりに捉えるのではなく、きちんと確認してください。
もちろん、これらも大きな意味での「欠陥」には違いありませんが。
本当に「欠陥」であれば別レベルの対応が必要になってきます。

と書いたところですが、返品したいという相談があれば、その理由は何かということを正確に聞き取る必要があります。
一般消費者の欠陥の定義はとても広いですが、相談現場や事業者での欠陥の定義は限られてきます。まず、そのギャップがないか確認します。
具体的な確認のポイントは長くなるので別の機会にしますが、返品理由に相当するかどうかが最初の判断になります。
返品理由に相当するのであれば、あとは事務的に進めるだけですが、返品理由に該当しない場合は複雑な話になります。

ここでは商品の不具合としておきますが、その不具合が本当に発生しているのかどうか、すなわち、単なる使用方法の確認ミスで作動しないだけなのか、いわゆる性能が思ったほどではないという品質不良なのか、という、どちらかというと消費者由来の理由である可能性を探ります。
そのような場合は、ネット通販の小さい店だと、単なる「いいがかり」、クレーマーと判断して無視することも考えられるからです。さらに、消費者から事業者への申出内容が正確に伝わっているかということも大事であり、正確に伝わっていない場合は単なるクレーマーとしてみなされて無視されることもあるからです。
商品に何が起こっているのかという事実をセンターでしっかり見極めてください。単なる使用方法のミスや確認不足の場合だと、使い方の助言だけで解決することもあります。

次に、実際に商品の側に問題があり返品理由に該当するとなれば、通常の返品作業に入ります。
注意しておかなければならないのは、安価なネット通販の特徴として、初期不良などの製品側に問題があったとしても返送料を負担させることがあるということです。それがネット通販の欠点です。
普通に考えれば、債務不履行などと主張して送料着払いなどを主張することは十分通る話ですが、そういう話をするだけで大変なときがあります。商品代金を考えながら、高額の場合は迅速な問題解決のために返送料を負担するなどケースバイケースで考えなければならないときもあります。
とにかく、事業者に返品したいという意思表示を主張することが大切です。
(今回は事故が発生した場合については省略します)

なお、返品理由に該当しない場合は、返品を受け付けてもらうのが困難となります。使い方の助言などでその商品を使い続けてもらえるなら、それでOKですが、けちがついた商品や品質に納得いかない商品の場合、自主交渉になります。(具体的な自主交渉の方法については省略します。)

最終的に今回のケース(商品に問題があり連絡がつかない場合)で、問い合わせて間もない場合は少し様子を見る必要があると思います(もちろん倒産や逃げていることが分かった場合は別です)。しかし、確実に連絡が届いていると思われるのに1週間以上も回答がなければ全く対応する気がないと考えてもいいかもしれません。そのような場合は、いわゆる法的手段に進むわけですが、やはり手間ひまかかります。そこで、クレジット支払いで引き落としがまだの場合などはクレジット会社に申し出ることも有効です。また、楽天であれば、楽天を通じて商品代金を支払っているようなもものですから、当然、楽天にも申し出ることは可能だと思います。ましてや、ランキング上位に入るような事業者であれば、楽天も無視するわけにはいかないでしょう。単なる単品不良で終わるのか、苦情がもっと拡大して楽天自身の信用問題になるのかは分かりませんが、どちらにしろ、モールの責任として無視することはないでしょう。ただし、モールからの回答も時間がかかるかもしれませんが、少しの間の我慢は必要です。

以上のように、ネット通販では一度トラブルが発生してしまうと、リカバリーするのに相当なエネルギーを必要とします。リアル店舗とは異なり、交渉に当たっては相談員もある程度の心構えが必要です。
すべてを伝え切れていませんが、実務的な現場対応についてまとめてみました。


さて、ここまで読まれると(いや、読まなくても)弁護士の回答に違和感を感じると思います。モール側は店舗の売上が上がればそれだけ収入も増えることになるのですから、弁護士のいう主張も理解しつつ、センターでの相談現場ではもう少し柔軟な解釈をしてもいいはずです。ましてや、ランキングというモールの独自システムを使って「店舗の売上を増加させる=モールの手数料も増加する」としているのはまぎれもない事実ですので、白黒つける弁護士の回答よりも、お互いの着地点を模索する方が友好的な話し合いができます。敵対的な話し合いをする弁護士的見方との大きな違いはそこになると思います(センターであっせん不調になれば弁護士相談にレベルアップします)」。

弁護士の回答を見直してみる
楽天などのモールと店舗が同一であると誤認するという時代は終わったと思います。よほどのこと(ネット初心者など)がない限り、一般論として商法14条の類推適用は無理矢理当てはめるのでなければ、該当しないのではないかと思います。
また、製品の重大事故などが起こればほかに適用する法律はたくさんあるので、いまさら民法の不法行為をモール側に主張するのも現実的ではないと思いますし、そのような事例には素早く対応していると思います。
最後の保証に基づく責任はないと書いてありますが、前述したようにとても違和感を感じます。
弁護士の回答でまとめた表は、私的な回答では「原則として、モールと店舗は同一な存在ではないが、モールはランキング表示をしているなど、店舗側と密接な関係があり、トラブルが生じたときには、道義的な責任を負う必要がある」となります。そして、これを理由としてモールとあっせん交渉していくことになると思います。
これが、同じ相談内容でも立場や見方を変えれば、さまざまな正解が出てくるというところです。

最後に私が言いたいことは
相談現場でも弁護士の助言を受ける制度がある恵まれたセンターがあると思います。その弁護士が相談現場の事情をよく理解していればいいのですが、そうでなければ、その回答は今回のような弁護士的な見方になることがあり、いかにも正しく見えますし、実際に正しいですが、消費者センターの現場対応の目線だと、「絵に書いた餅」になる可能性もあります。特に、法的主張をすれば消費者側に有利であるという助言が、敵対的な方法につながり、相談員が苦労する場合もあるので、あくまでも参考として、最終的には相談員自身で判断することが大切だと思います。
みなさまも、これと同じような相談を受けた経験がたくさんあると思いますので、上手くいったこと、上手くいかなかったこと、こうすれば上手くいってたかもしれないなどを振り返ってみて、次につながればいいと思います。

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弁護士の見方と相談現場の違い その3

「その1」「その2」を読んでいない方は、まず、そちらの記事を先に読んでください。

Q インターネットのショッピングモールで総合ランキング5位の商品を購入したところ、欠陥があり使えませんでした。売っていた店舗には全く連絡がつきません。モールの運営者に損害賠償を請求できますか。

まず直感的にこの質問内容は情報が少なくて正確性に欠けると感じました。
つまり、相談者目線の内容なので、あっせんするための内容に翻訳する必要があります。
そこで、この相談内容の本質にせまるため事実関係について、2点考えたいと思います。
というよりも、この2点を確認しなければ前進しないと思います。

①「欠陥」について
楽天であれば総合5位というのはかなりの販売量です。食品や雑貨が多いので、「欠陥」という表現は正確ではない可能性があります。
仮に、家電品などの機械物として考えたとしても、私たちの世界で言う「欠陥」ではなく、「故障」「不良品」「初期不良」の分野ではないでしょうか。
一般消費者は、普通の故障を「欠陥」ということが多いので、この言葉を額面どおりに捉えるのではなく、きちんと確認してください。
もちろん、これらも大きな意味での「欠陥」には違いありませんが。
本当に「欠陥」であれば別レベルの対応が必要になってきます。
②店舗と連絡がつかないことについて
「売っていた店舗には全く連絡がつきません。」という内容をどう解釈するかということです。店舗とは連絡がつかないので、質問者はモールに責任を求めています。
まず、消費者が思うことは、電話が通じない、メールの返信がないなどから、店舗が粗悪品を販売する悪質業者ではないか、詐欺ではないか、倒産して連絡がつかなくなったのではないか、と考えます。
そして、モールに対応や責任を求めたり、消費者センターに相談します。
多くの場合、このような店舗は少ない人数で雑貨などを多品種で薄利多売しています。これが成り立つのがネットショップの妙味です。
そして、電話はほとんどつながりません。
注文数もかなり多いので、メールの返信にも時間がかかります。
つまり、連絡がつかないだけなのです。
これがネットショッピングのアフタサービスの欠点です。
運営者1人で営業していることもありますので、昼間から電話が通じることはまれです。
電話番号すら表記していないところもあります。また対応はメールのみというのもあります。
相談現場でも電話したときにつながらないことがあると思います。所在地を見たら単なる住宅だったりします。
自宅で1人でネットショップという形態も珍しくありません。

以上の2点が、モールに申し出る前に、まず確認すべきことではないかと思います。

もしかしたら以下のような質問が実際の内容になるかもしれませんね。
Q インターネットのショッピングモールで総合ランキング5位の商品を購入したところ、欠陥があり壊れていて使えませんでした。売っていた店舗には×日前にメールをしたのに返信がありません。電話も呼び出し音がなるだけで、全く連絡がつきません。連絡がつかないので、この業者は悪質で詐欺だと思います。モールの運営者に損害賠償返品や返金を請求できますか。


今回の回答には法律的な解釈が書かれていますが、先ほど書いた可能性をまず考えます。
その場合、確認しておくことは、倒産したり、逃げたりしていないかどうかです。
ショップのHPがなくなっている場合は倒産や詐欺の可能性は濃厚です。
みなさんも経験があるかもしれません。
今のネット社会では、このような営業規模の大きいショップのネガティブ情報は各種の掲示板に書かれています。
掲示板情報は真偽は不明なので参考程度に考えますが、「2ちゃんねる」を含めかなり参考になります。
そして、ショップの商品ページのコメントも参考にして、確かに商売が動いているかという確認をしてください。
トラブルのあった場合の対応が遅いなどのコメントが見つかる場合もあります。
また、本当にトラブル続きの問題ショップであれば、さすがにモール(楽天)自体も対応しますし、逃げたりした場合は返金する可能性もあるかもしれません。
実際にランキングに入っているぐらいの店舗であれば、ある程度信用できるし、モール側も責任を持つと思います。

このような情報を相談者から聞き取って、また、ネットで調査して、PIO-NETの情報も検索して、その結果、営業していると分かれば、忙しくて「対応に手が回っていない」のではないかと思います。これはよくあることです。そうなれば、詐欺とは確定できないので、モールや警察も手が出しにくいですね。ただし、1ヶ月など長期間に渡り返信がないのであれば問題です。ネットショップであれば1週間や2週間は十分ありえます。それに対して消費者は、メールした翌日に回答がなければ騒ぎ出すことがあります。メールが届いていなかったり、迷惑メールに振り分けられている可能性もあるので、まず商品に問題があることの意思表示が必ず店舗側に伝わるように頑張ってください。

センターとしては、状況を確認した後、「しばらく様子見」という選択になることが多いのではないかと思います。
「調べてみると営業していると思われます。このようなショップは人も少なく対応が遅いことが多いので、粘り強く何回もメール等で連絡してください。場合によっては、FAXや手紙など文書で連絡してください。気になるようだったら、モール(楽天)にも報告しておいてください。それでも、連絡がなかったら再相談してください。」

以上が私の直感的な回答になります。
相談者には一般論を即答するか、一旦電話を切って、店舗に連絡するなど情報収集してから回答してはどうかなと思います。

 


続いては、相談者のいう「欠陥」で使えないというのが、「本当に使えない」かどうかという問題です。
(続く)

この記事へのコメントは次回にまとめてお願いします。

弁護士の見方と相談現場の違い その2

「その1」を読んでいない方は、まず、そちらの記事を先に読んでください。

前回は、回答を先に読まれたくないので具体的な新聞の名前を書いていませんでしたが、読まれた方もいるかもしれませんが、日本経済新聞です。
日経新聞の法律相談のコーナーに、ネットで買った商品に欠陥があった場合の読者からの質問に対する弁護士のアドバイスが掲載されていました。
(引用)日本経済新聞 平成25年4月2日夕刊 法ほーそうですか

今回は、記事の回答を全文引用します。
法律的な解釈が前提になっていますが、現実的に解決に結びつくのか考えてみてください。

Q インターネットのショッピングモールで総合ランキング5位の商品を購入したところ、欠陥があり使えませんでした。売っていた店舗には全く連絡がつきません。モールの運営者に損害賠償を請求できますか。
A
ショッピングモールの運営者は商品の売買契約の当事者ではありません。したがって原則として利用者である相談者とモールに出店している個別の店舗との取引によって生じた損害については売り主としての責任を負いません。
ただ、①店舗による営業をモール運営者自身による営業であると利用者が誤って判断するもやむを得ない外観が存在し(外観の存在)、②その外観が存在することについてモール運営者に責任があり(帰責理由)、利用者が重大な過失がなくその外観を信じて取引した場合(利用者の善意無重過)は、商法14条の類推適用によりモール運営者が責任を負うことがあります。
また、製品による重大な事故が多数発生しているにも関わらず、モールの運営者がそれを知りつつ、放置した場合には、民法709条の不法行為責任やモール利用契約に付随する注意義務違反に基づく責任を負う可能性があります。
モール運営者が特定の品質を保証したような場合も責任を問われることがあります。質問者の事案はランキングを表示したものですが、モールの個々の店舗の売上高を示しているに過ぎませんので商品の品質を保証したとまではいえないでしょう。
モールの外観、モールの運営者の運営形態、モールの運営者の店舗営業への関与の有無、程度、商品の欠陥に対する苦情の有無などを確認し、弁護士などの専門家に相談してみてください。独立行政法人国民生活センターのホットラインに問い合わせてみるのもいいでしょう。

(表)ショッピングモールの運営者責任

責任 売り主としての責任は負わない
責任が生じる条件 1.商法14条が類推適用される場合
2.不法行為責任またはモール利用契約に付随する責任がある場合
3.保証に基づく責任がある場合

この回答に対して感じることがあればコメントしてください。
なお、その3(会員専用)で相談現場を想定した場合の私の考え方について、弁護士の回答と比較しながら書いてみたいと思います。

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