ヤミ金からの押し貸しの元本返却 その4

前回の続きです

発生した事実をなかったことに戻していく作業をし、解決策を出していきます。
しかしながら終わってしまった事実の中で戻すことができる(なかったことにすることができる)ものとできないものがあります。
できないものは仕方がありません。その場合は、将来に向かっての不安をなくしてあげることを考えます。
一つ一つ順番にみていきます。
①借金について問い合わせた
②口座情報等の個人情報を伝えた(知られている)
この2つは知られてしまったので戻すことはできません。
今後何らかのアクションがあれば「消費者センターや警察等の公共機関に相談した」という事実でもって、将来何か言われたとしても対応は可能だと思います。
(①②解決可能)

③契約はしていない
④違法金利のヤミ金のようである(推測ではあるが事実に近い)
口頭でも契約は成立するとはいえ、一般的に金銭消費貸借契約は書面で契約を交わすことが原則ですし、契約したという事実関係を証明するのも難しいと思います。なによりも、違法金利であれば、契約自体が成り立たないということは明白でしょうし、貸金業者の登録をしているかどうかも疑問ですね。
このような業者は文句を言われないように商売をして搾り取っていくことが基本となるので、表ざたになってしまえば深入りはしないのではないかと思います。
何かいわれれば、「問い合わせをしただけで契約はしていない」「契約書は交わしていない」「消費者センターや警察にも相談した」など、その部分を突っ込んでいけば対応可能だと思います。すでに押し貸しされていた場合は⑤にすすみます。
(③④解決可能)

⑤勝手に口座にお金が振り込まれた
振り込まれた金額を相手側に返金する
相手側の連絡先が分かっているなら、返金して、今回の対応は基本的には終了となります。
しっかり返金した証拠を残したり、念のために警察にも連絡しておきましょう。
(⑤連絡先が分かれば解決可能だが、分からなければ⑥にすすむ)

⑥相手側と連絡がつかない
連絡先を探すか、同等の方法をとる
(⑥解決方法を探す)

今回の相談での一番のポイントは「⑥相手側と連絡がつかない」を解決する方法を考えることです。
これが目的となるので、焦点がずれないようにしましょう。

今回、普通の状況と違うのは
⑤相手側と連絡がつかない
ということです。
このハードルをクリアすることこそが、このあっせんのポイントなのです。
そして、実はかなり高いハードルになります。
また、どこまでやるのかはセンターの方針や相談員個人の気持ち次第です。

具体的な方法を考えていきます。
といっても私にもこれだという正解はもちあわせていません。
いくつかのアイデアを示したいと思いますので、それを参考にしながら考えてください。

ローラー作戦
新聞広告の記事、ネットでの検索、相談者からの聞き取りなどの断片的な情報から、業者を探し出す。
普段から検索能力に長けている人とそうでない人とのレベル差が大きいので、周りの人の力を借りて探し出す。
その結果、業者が特定できたのなら前述した⑤の段階に戻って解決となります。

組み戻し?作戦
銀行振り込みなので、銀行に依頼して振込者の間に入ってもらう。
ヤミ金ですので口座からの入金ではなく、個人名で現金振込みされていたら難しいかもしれません。
業者が間違って振り込んだのではなく、正しく振り込んだものだと主張すれば銀行側も手を出しにくくなります。
銀行も個人情報の関係もあります。
この作戦は上手くいかない可能性が高いですが、とりあえず、銀行に相談してみるのは少しの手間だけですので試してはどうでしょうか。

警察へ通報
警察は今回の話を聞いて記録には残してくれると思いますが、お金を返金するということは難しいと思います。
もしかすると、お金を返す必要がないから放置しておきなさいという回答になってしまうかもしれません。
それは正しいことですが相談者の目的とは異なります。

なかなか、これといった方法が浮かんでこないのですが、私が最終的にたどりついた方法は...

供託作戦
供託は有名な法律用語でありながら現場ではあまり使う機会が少ないような気がします。
せいぜい家賃の関係で使うかもしれませんが、消費者センターレベルではなく、もう少し上の法律相談レベルで使われることが多いのではないかと思います。

供託とは
法務省のHP
トップページ > 法務省の概要 > 各組織の説明 > 内部部局 > 民事局 > 供託
http://www.moj.go.jp/MINJI/kyoutaku.html
トップページ > 法務省の概要 > 各組織の説明 > 内部部局 > 民事局 > 供託 > 供託手続
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07.html

供託手続

第1  供託とは
供託とは,金銭,有価証券などを国家機関である供託所に提出して,その管理を委ね,最終的には供託所がその財産をある人に取得させることによって,一定の法律上の目的を達成しようとするために設けられている制度です。
ただし,供託が認められるのは,法令(例えば,民法,商法,民事訴訟法,民事執行法等)の規定によって,供託が義務付けられている場合または供託をすることが許容されている場合に限られています。

第2  供託の種類
供託は,その機能により大別すると,次の5つがあります。
(1 )弁済のためにする供託(弁済供託)
(2 )担保のためにする供託(担保保証供託) ― 裁判上の保証供託/営業上の保証供託/税法上の担保供託
(3 )強制執行のためにする供託(執行供託)
(4 )保管のための供託(保管供託)
(5 )没取の目的物の供託(没取供託)

今回問題にしている押し貸しが法令の規定に基づき供託できる種類なのか?
おそらく「弁済供託」にあたるのでは思いますが、念のため法務局に電話してみましたが、「弁済供託」にあたり、供託できるとのことでした。
被供託者の具体的な連絡先等の情報がどこまで必要かは、具体的に手続をして見なければ本当に受けてくれるかどうかは分からないので、念のため、できるだけ証拠書類や資料を添えて確認してください。
供託手続については上記のページで詳しく解説されています。
ちなみに、手数料は無料です(ただし、供託金を振り込む場合などは通常の振り込み手数料が必要です)。
また、全国各地に供託所がありますのでお住まいの供託所=法務局にお問い合わせください。供託所の一覧表も先のHPに掲載されています。
供託金の返還を受けるには供託者の取戻請求と被供託者の還付請求がありますが、ヤミ金業者が身分証明書や印鑑証明や実印などを持って法務省にまでいくとは考えられませんね。
このまま放置しておくという手もありますが、業者の連絡先(振込先)がわかったり、業者から請求があった場合には、面倒ですが、供託金の取り戻し請求をして、お金を業者に振り込んで、終了としてしまうほうが気分的には楽なのではないかと思います。
相談対応では、供託を助言した後に、業者から支払い請求がされたという事後の相談に備えてください。

今回の事例では、私は最終的に「供託」という答にたどりつきましたが、みなさんならどうだったでしょうか?
助言なしでどこかに振るという方法は避けたいものですね。

補足として付け加えると、裁判でこの押し貸しは無効なものであることを訴えるという方法もあると思いま。
例えば、「債務不存在訴訟」が該当するかもしれませんが、手続や労力的にハードルが高いですね。

次回は、最終回として、相談員のスキルや相談を受ける心構えを含めて、まとめを書きたいと思います。

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ヤミ金からの押し貸しの元本返却 その3

ちなみに、前回の不法原因給付ですが、24年度の相談員試験の民法の問題として出題されています。

問題9-⑤(正誤で誤りのときは×を選択)

売買契約が無効であるときは、当事者はそれぞれ、繼退その契約に基づいて代金の支払や目的物の引渡しを請求することができない。また、当事者が、繼鄀無効な契約に基づいて、事実上既に代金支払や目的物の引渡しなどの履行をしてしまった場合には、その返還を請求することができる。ただし、繼鈀不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することはできない


今回が解決方法として最終回となる予定でしたが書いていくうちに思いのほか長文になったので、分割します。

それでは相談現場ではどのような対応方法があるのか考えたいと思います。
いつも言っていることですが、答えは1つとは限りませんし、私の考えが正解だというものではありませんが、一つの考え方として参考にしていただいて、みなさまのスキルアップにつながればと思っています。

相談者の希望要望は何でしょうか?
これがすべてです。
簡単ですね。
複雑に考える必要がないのです。
不法原因給付という知識を持ち出して相談者の希望していない方向へ導く必要はないのです。
相談員として何をすべきかは単純なのです。

相談内容を整理するには事実と感情(希望要望)に分けてロジカルに考えると説明してきました。
一つ一つひも解いていけばいいのです。
事実として
①借金について問い合わせた
②口座情報等の個人情報を伝えた(知られている)
③契約はしていない
④違法金利のヤミ金のようである(推測ではあるが事実に入れておきます)
⑤勝手に口座にお金が振り込まれた
⑥業者側と連絡がつかない
希望要望(感情)として
①契約はしていないし、今後何かいわれるのが嫌なので、お金を返したい

法律に従うと「不法原因給付は返還する必要がない」となりますが、これは相談者の希望ではありません
これを適応することは前回までに説明した行政書士としての戦略になります。
行政書士としては、「なぜわざわざ返還しなければならないのか?」となりますが、消費者センターではしばしば法の枠にこだわらないあっせんを行います。
相談者の希望を最優先して、その解決方法を消費者センターのできる範囲で提示して、相談者の判断をあおぐというのが前提になります。
何度もいいますが、消費者センターというところは、クーリングオフのように法律に則った判断をする部分もありますが、多くは裁判のように明確に白黒をつけるのではなく、お互いの要望を聞きながら妥協点を探り落としどころを見つけ「あっせん」をするところです

この相談者の要望は不法原因給付のお金を自分のものにするのではなく、「今後何か言われるのが嫌」だから「お金を返したい」のです。
この相談者の要望が、消費者センター的に妥当かどうか考えます。

まず相談者に具体的な損害が出ているか?
といえば、利息も返済もしていないので損害は発生していません。
今後何らかの損害が発生するおそれがあるのか?
といえば、業者側から見れば押し貸しをした状態にあるので、このまま放置しておけば、利息を含めた返済をせまられるおそれがあります。
また、契約の有無の議論になっても、通じる相手ではなく、何らかのいちゃもんをつけられる可能性があります。
今のままの状態では、将来的に、相談者の「今後何か言われるのが嫌」という希望がかなえられない可能性があります。

消費者センター的には、この将来的な不安をなくしてあげることが大切になります。
この不安をなくすにはどうしたらいいでしょうか?
そして振り込まれたお金をそのまま返すためにはどうすればいいのでしょうか?

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ヤミ金からの押し貸しの元本返却 その2

前回の続きになります。

このような相談を受けた場合にどう助言したらいいでしょうか

スポーツ新聞の広告でお金を貸してくれる業者に電話して個人情報を教えたところ、契約の了解もしていないのに口座にお金が振り込まれてきた。
法定金利を超えるヤミ金業者のようである。後からトラブルになるのも嫌なので、お金を返却したいが連絡がつかない。
どうしたらよいか?

相談現場でもありがちな事例ですが、みなさんならどのように助言しますか?
ケーススタディとして考えてみてください。

法律の専門家の回答は
「元本も返還する必要がない」
ということになります。

その法律的な解釈は以下のとおりです。

民法・・・http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html

第四章 不当利得
(不法原因給付)
第七百八条  不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

参考

最高裁判例

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36427&hanreiKbn=02
平成20年06月10日
判示事項
1 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することの可否
2 いわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で違法に金員を取得する手段として著しく高利の貸付けの形をとって借主に金員を交付し,借主が貸付金に相当する利益を得た場合に,借主からの不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた事例
裁判要旨
1 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,民法708条の趣旨に反するものとして許されない。
2 いわゆるヤミ金融の組織に属する業者が,借主から元利金等の名目で違法に金員を取得して多大の利益を得る手段として,年利数百%~数千%の著しく高利の貸付けという形をとって借主に金員を交付し,これにより,当該借主が,弁済として交付した金員に相当する損害を被るとともに,上記貸付けとしての金員の交付によって利益を得たという事情の下では,当該借主から上記組織の統括者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として当該借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されない。
(1,2につき意見がある。)
参照法条
(1,2につき)民法708条,民法709条 (2につき)出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項

国民生活センターHP
トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > ヤミ金融に対する元本相当額を含む弁済金全額の返還が認められた事例[2005年12月:公表]
http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/200512.html
本件は、貸金業法に定めのある登録貸金業者が、出資法5条所定の利率を大幅に上回る年利1200パーセントという超高金利の貸し付けをした事案である。判決は、この貸し付けが、違法行為の手段に過ぎず、民法上の保護に値する財産的価値の移転があったとは評価できないとして、元本相当額を含む弁済額全額の返還を認めた。(札幌高等裁判所平成17年2月23日判決)
『消費者法ニュース』63号38ページ

解説

平成15年度のヤミ金規制法(注)による貸金業規制法の改正により、年利109.5パーセントを超える利息の貸し付けは無効とする旨が定められた。それ以前から、出資法に大幅に違反する高金利で、貸金業規制法に定める契約書面の交付義務、領収書面の交付義務などを守らない悪質な業者による貸し付けについては、不法原因給付であるとか、公序良俗違反であるとして、貸金業者からの返済請求は認めない判決が多数出されていた。また、こうした貸金業者に対して消費者が弁済した金員について、利息相当部分については返還を命ずるのが判決の流れとなっていた。
本件訴訟で問題となったのは、貸金業登録業者でありながら同法に定める契約書面の交付義務、領収書面の交付義務を守らず、年利1200パーセントもの超高金利で貸し付けていた事業者からの過酷な取り立てによって弁済した金額について、その全額について返還を求めた点である。借入元金相当額についてもすべて返還を認めた下級審判決は複数あるが、本件判決は、高等裁判所のレベルで元本相当額も含めた全額について返還を命じた初の判決として参考になる。
「出資法の罰則に明らかに該当する行為については、もはや、金銭消費貸借契約という法律構成をすること自体が相当ではなく、Yが支出した貸金についても、それは貸金に名を借りた違法行為の手段に過ぎず、民法上の保護に値する財産的価値の移転があったと評価することは相当ではない」として、支払ったすべての金額が不法行為による損害であると認定し、さらにYからXに交付された金銭については、実体法上保護に値しないのみならず、訴訟法上の観点から見ても、Yに利益になるように評価することが許されないとする点は、同種の実務においても参考になる。
なお、本判決については、被控訴人より、平成17年3月8日に上告の申し立てがなされている。
注 ヤミ金規制法:「貸金業の規制等に関する法律及び出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律」

要は、ヤミ金のような暴利をむさぼる不法な貸付は、原本をも返済する必要がない、ということです。
もっとも、実務的には、元本と法定利息を超える返済をしている状況であるものの、すべての金額が不法行為による損害なので元本も含む全額の賠償の請求をしていくことになります。

では、今回の事例について考えると、無理やり貸し付けられたお金については、間がないので返済もしていない状態です。
この押し貸しが法定利率を超える違法な給付であるなら、口座に入金された元本を返済する必要がない、ということになります。

すると、今回の事例は、「法律に違反する貸付なので、元本も返す必要がないですよ」ということで終了としていいのでしょうか?
セミナーの司法書士の先生は、「これでよい、文句を言ってきても対抗できる」と主張します。
法律をきっちり準用する法律家らしい視点ですね。

私であれば、そこまで思い切った回答は出せませんね。
実際に、民法708条に該当する「不法原因給付」の適用に本当に該当するのかという疑問も残りますし、その判断は法律相談ということになるかもしれません。

消費者センターは裁判所のように法律に則った判断をするというよりも、相談者のおかれている状況を勘案して、最も適切な対応について助言(あっせん)するところです。
法律家のような判断をすれば、今回の相談者は不安な毎日を過ごさないといけないかもしれません。

そこで、消費者センター的な対応はどうすればいいのかについて、次回、考えたいと思います。

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