携帯中途解約金訴訟 判決 その4(最終回)

今回の判決についての個人的な意見を書きたいと思います。
まず、裁判を起こした平成22年に、「携帯電話の違約金条項の使用差し止め訴訟」(https://soudanskill.com/20100617/53.html)という記事を書きました。
基本的な考えは変わっていないので、そのときに書いたものを参照しながら書きたいと思います。

従来(今も継続していますが)は契約期間に応じて割引する年割りと家族割の2本立てで前者は過去の契約期間に応じて10年で最大25%割引になり、後者の25%割引とあわせて基本料が半額になるというものでした。つまり、以前から同一事業者を長期間使用していなければ、割引の恩恵にあずかれなかったのです。ところが、2年契約を前提にいきなり半額にするというプランが出てきました。とても、ありがたいプランです。ただし、中途解約には違約金が発生するというものです。
このビジネスモデルは、よく考えられていると思います。事業者にとっても、消費者にとっても、中途解約しなければ、メリットの高いやり方だと思います。近年は長期契約で基本料を割引制度が一般的です。これは、長期契約することで基本料収入が確実に見込めるからこそ、割引くことが可能になったもので、当然、問題のない制度だと思います。半額なので1年で元が取れるということですね。
この制度が携帯電話機本体の割賦販売にも応用されています。こちらのほうも苦情相談が多いと思いますが、基本的には問題はないと思います。表示がわかりにくいのは問題ですが。
ただし、2年間の自動更新については私自身は何とかしてほしいと感じています。

今回の判決もあわせて私の考えをまとめると
①解除料の9975円はは不当とはいえない(判決に同意)
②割引前の基本料が「表示価格」で実際は割引後価格が「実質価格」であるとはいいきれない(判決にほぼ同意)
③更新後も同様の解除料の規定を適用するのは疑問(判決に不同意)
④裁判での基本料金の算定方法に疑問(判決に一部不同意)
の3点です

①ほとんどの消費者が契約しているであろう980円プランであれば、1年以上契約を続ければメリットを受けることができます。解約をしなければいいというだけで、1年以内の短期で解約するなど、自己都合以外の解約理由があるのだろうか。
②法人契約など2年縛りの契約をできない契約者も存在すると思います。したがって、割引前価格の契約は実際に存在すると思います。契約者数の数字が出てくれば説得力があるのではないかと思います。
③携帯電話の本体の料金と通信料が分離され、機種代金が高額になり、分割払いのプランが出現しました。
結局、事業者間での競争が激しくなり、機種代金が0円になるものもあったり、キャッシュバックがあったり、昔の0円携帯の時代に戻ったみたいです。する と、機種代金等の初期費用を通信費でカバーしようとして、2年縛りの契約が原資になっているような気がします。最近はパケット使い放題も原資に含まれてい るのではないでしょうか。
そう考えると、初期の販促費を2年契約で取り戻し、更新以降は利益になっているのではないかという思いがあります。
だからこそ、1回目の更新が終わったら、2回目以降の更新の条件は同じにすべきではないと思うのです。裁判の中では更新後の解約期間は明らかではないが、同等とみなすのが相当であるとしています。私は2回目以降の解約期間は必ずしも14ヶ月で はないと思います。学割が3年更新、電池の寿命が2年、故障のリスクを考えると、2年目の次が4年目で同じ9975円は金額は別として期間として不当ではないかと思っています。また、純粋に 通信料だけで考えるべきではなく、機種本体の事情による解約も考慮すべきだと思います。個人的には2回目以降の更新は半分の1年で解除料も半分の4990円にするのが納得ではないでしょうか。
④今回の判決で事業者が出した平均的損害の算出根拠に驚きました。しっかりと根拠が示せるのですね。
それは、「平成21年4月から22年3月までの月ごとの契約者数を単純平均し、割引前後の差額を加重平均すると2160円」、FOMAサービスの各料金プ ランの加入者数をもとに加重平均して算出した平均月額基本使用料は4320円だったということです。これって本当なのかな?
どう考えても、無料通信分が加わっている基本使用料を算定の根拠にしているような気がする。
無料通信は基本使用料からはずして計算すべきではないのか?
もし控訴した場合は、2160円という差額の根拠となる算定方法が適当ではないというところを争点にしても良いのではないでしょうか。さらに、無料通信分も算定根拠にするなら、基本料をかさ上げすることになり、不当利得にもなる可能性もあるのではと思ったりします。
それでも、9975円を下回ることはないと思います。

(参考)メールアドレスが変更してもよいのなら、2年ごとに他の事業者にMNPで乗り換えて、乗り換え特典を利用し、新しい機種を使うことが最もメリットがありますし、同じ事業者でも電話番号とメルアドが変わっても良いのなら解約新規にすれば負担が少なく新しい機種が購入できます。まあ、ここまでやっている消費者はどれぐらいいるのかというところですが。

消費者契約法の団体訴訟のデメリットは一旦判決が確定すれば同じ件で裁判を起こせないということです。
良い結果が出ればいいのですが、悪い結果がでると大変です。
したがって、安易に裁判を起こすのではなく、吟味しなければなりません。
しかし、現実にそこまで充実している適格消費者団体はないと思います。
どこもいっぱいいっぱいの状態だと思います。
ほとんどの裁判は必要な裁判だったと思いますし、判決でも、ほぼ要求が通った形になっています。
しかし、今回は違っています。
本当に今回の裁判は起こす必要があったのかが疑問です。
裁判の判断も十分に予想できたはずですし、一石を投じるために起こすには、団体訴訟ではリスクが大きかったかもしれないと思います。
悪しき判例?を作ってしまったような気がします。

あまり批判的なことは書きたくないのですが、あえて書いたのは、通常の相談業務と共通するところがあるからです。
すなわち、なんでもかんでも不当だと決め付けて事業者と交渉するのではなく、本当に不当なのかということをしっかり議論したうえで、不当であると判断したのなら、声を上げるべきだと思います。
消費者は納得できないことはすべて不当だと主張します。
たとえば、クーリングオフ期間が終了した後は無条件解約はできず、解約金を含めた自主交渉になると説明しても、納得しないこともありますし、店舗販売で購入した商品が自己都合で返品できないという説明に納得しないこともよくある話です。
相談員自身が不当要求するクレーマーにならないためにも、客観的になって、しっかり案件が不当かどうか判断して行動してほしいと思います。

消費者契約法

第二節 消費者契約の条項の無効

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第八条  次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一  事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二  事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の全部を免除する条項
四  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の一部を免除する条項
五  消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
2  前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。
一  当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
二  当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二  当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

携帯中途解約金訴訟 判決 その3

前回の続きです

争点(4)
法10条前段における「民法 、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」の解釈

原告の主張
・法10条は不当条項がなかった場合に比べて消費者利益が害されている場合に広く適用される一般条項であるというべきであり、「民法 、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」は何らかの範囲に制限されるものではない。
被告の主張
・講学上の任意規定のみを指す
裁判での判断
・民法等の「法律の公の秩序に関しない規定」は明文の規定のほか、一般的な法理をも含むと解すべきであるから原告の主張には理由があり、被告の主張には理由がない。
※いまいち分からないのですが、今回の解約規定は任意規定であるということでしょう。

争点(5)
本件解約金条項の法10条前段該当性

・FOMAサービス契約は民法が典型として規定する委任契約または準委任契約にそのまま該当するということはいえず、一種の無名契約と認めるのが相当
・解約条項は「公の秩序に関しない規定」に比較して消費者の権利を制限し、消費者の義務を加重しているというべきである。
※この任意規定は消費者に権利の制限や義務を加重しているということでしょうね。そして、それが妥当かどうかを次に判断していくことになるのでしょうね。

争点(6)
本件当初解約金条項の法10条後段該当性

・解約金条項が消費者の解約権を制限していることが消費者にとって一方的に不利益なものであるということはできない。
・カタログには解約金に関する記載が存在し、その性質を明確に説明しており、被告と消費者との間にはこのような説明を踏まえた上で、解約金条項に基づく明確な合意が成立しているというべき。
・消費者は解約金条項に基づき解約権の制限を受けるものの、そのことに見合った対価を受けており、制限の内容についても何ら不合理なものではなく、情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在するということはできないといえるから、法10条後段には該当しないと解するのが相当である。
※解約金条項はお互いに明確な合意があるので、不当とはいえないということでしょうね。

争点(7)
本件更新後解約金条項の法10条後段妥当性

・消費者は契約が更新された後に解約金の支払い義務を負うとされることによって解約権の制限を受けるものの、そのことに見合った対価を受けており、制限の内容についても何ら不合理なものではないから、更新後の解約金条項が、金額を問わず一般的に法10条後段に該当するとは言えない。
※今までの流れから更新後も不当ではないということでしょう。

以上のとおり解約金条項は法9条1号にも法10条にも該当しないものであって有効である。
原告の不当利得返還請求は前提を欠くので判断する必要はない。
よって、原告らの請求はいずれも理由がないことから、これを棄却する。

※長い理論構成ですね。裁判は大変だなあと思います。それだけに時間がかかるのでしょうね。この判決について評論することは楽しいかもしれません。まさしく、学者の魂です。息抜きぐらいに考えておいてくださいね。
相談員としては、解約金が正当なものかどうかという判断はせず、今現在の個別のトラブルを解決するにはどうすればいいのかということに全力を注ぎ、材料をそろえてあげることが必要だと思います。
もちろん、不当条項に対する戦いはすべきでしょうが、ある程度の役割分担を前提として、何でもかんでも相談員や消費者センターができる・やるべきと考えると、しんどくなってしまいます。

消費者契約法

第二節 消費者契約の条項の無効

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第八条  次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一  事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二  事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の全部を免除する条項
四  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の一部を免除する条項
五  消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
2  前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。
一  当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
二  当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二  当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

携帯中途解約金訴訟 判決 その2

携帯中途解約金訴訟 判決 その1(https://soudanskill.com/20120409/436.html)で紹介した裁判の判決文を読むと、理論構成がとても勉強になります。
また、携帯電話料金に関することも勉強になりますので、一部を紹介します。
控訴するかどうかは分かりませんので、この内容が判例となるかは何ともいえません。
それと、判決文を読み込んで勉強になるというのは、どちらかというと先日紹介した「学者」寄りの知識勉強になることを付け加えておきます。
読めば読むほど面白く奥深いのは事実です。

争点については、7個あげられています
争点(1)本件解約金条項についての法による規制の可否
争点(2)本件解約金条項の法9条1号妥当性
争点(3)本件更新後解約金条項の法9条1号妥当性
争点(4)法10条前段における「民法 、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」の解釈
争点(5)本件解約金条項の法10条前段該当性
争点(6)本件当初解約金条項の法10条後段該当性
争点(7)本件更新後解約金条項の法10条後段妥当性
※法とは消費者契約法のこと(以下同じ)

争点(1)
本件解約金条項についての法による規制の可否

原告の主張
・解約金に関する条項は法9条1号又は10条に該当して無効である
被告(事業者)の主張
・サービス提供の対価として設定したもので、契約自由の原則による当事者間の合意に基づき自由に決定できるので、法による規制の対象外である
裁判での判断
・法9条1号は「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定又は違約金を定める条項」を対象としており、契約の目的である物又は対価についての合意を対象としていないことは明らか
・本件解約金条項は、「消費者が契約期間内に解約した場合に一定額を支払う義務を規定したものであるので、契約上の対価についての合意ではない
・したがって、本件解約金条項は、契約期間中の中途解約時の損害賠償の額を予定又は違約金を定める条項であると認められるから、法9条1号又は10条を基準として審査が及ぶというべき
※解約金条項が「法9条1号又は10条の争いに該当するのかどうか」ということに対して「該当する」との判断が出たということですね。まわりくどいですが、こういう部分の議論から始まるのですね。

争点(2)
本件解約金条項の法9条1号妥当性

原告の主張
・解約金9975円は「平均的な損害」の額を超えるものであり無効である
・(ア)料金プランや中途解約の時期が異なる顧客が存在するので、総体的に「平均的な損害」を算出するのではなく契約の類型ごとに算出すべき
・(イ)他の通信事業者と競争になっているので標準基本使用料金は単なる「表示価格」にすぎず、「実質価格」は割り引き後価格である。したがって、標準基本料と割引後基本料との差額は被告の損害と捉えるべきではない
被告の主張
・解約金条項は法9条1号には該当しない
裁判での判断
・(ア)「平均的な損害」の算出にあたっては解除の時期を1日おきに区切るなど事業者が行っていない細分化を行うことは妥当ではないので、解除の時期を問うことなく消費者を総体として捉えることになる。しかし、その場合であっても「平均的な損害」の計算を解除の時期ごとの具体的な解除件数や損害等を踏まえて適切に行い、この額が当該条項の定める金額を下回るのであれば無効と判断すべきことになるから問題は生じない。
・(イ)一定期間にわたって契約関係を継続するという条件を受け入れる顧客に限って割引し、受け入れない顧客に対しては標準基本料を提示している。標準基本料の顧客は何ら特別な負担なく随時に契約を解除できるという有利な条件を享受することができる。大多数が割引後基本料を契約しているという事実があっても、それに左右されることはない。高額な基本料を支払うことを受容し契約することを選択する可能性は十分に存在する。したがって、標準基本料が実質的な対価として機能していないということはできず、標準基本料と割引後基本料との差額を損害と見ることができる。
・中途解約から契約満了までの累積額を損害賠償として請求することは「平均的な損害」の算定の基礎とすることはできない。したがって、割引契約の開始時から中途解約までの累積額についてのみ「平均的な損害」の算定の基礎とすることができるとすべき
・平成21年4月から22年3月までの月ごとの契約者数を単純平均し、割引前後の差額を加重平均すると「2160円」
・平成21年8月1日から22年8月31日までの解約者数の加重平均は「14ヶ月」
・すると中途解約による「平均的な損害」は「2160円×14ヶ月=30240円」となり、解約金の9975円を下回るものであるから、法9条1号に該当するということはできない。
※なかなか説得力のある平均的な損害額の算定ですね。もっとも個人的には2160円というよりも980円としたい気がします。ただ、個人の消費者は2年縛りつきの割引プランを契約するのがほとんどでしょうが法人契約はそうもいかないのでしょうね。

争点(3)
本件更新後解約金条項の法9条1号妥当性

原告の主張
・契約が更新された後は中途解約時に被告に損害が生じることはない
被告の主張
・「平均的な損害」は更新の前後で全く異ならない
裁判での判断
・契約を更新した後の中途解約時の平均経過月数は明らかではない。
・中途解約についての傾向が更新前後で極端に異なることを認めるに足りる証拠はないから、更新後の解約までの経過月数の平均は14ヶ月とみるのが相当である。
・したがって、更新後の「平均的な損害」も「2160円×14ヶ月=30240円」となり、解約金の9975円を下回るものであるから、法9条1号に該当するということはできない。
※これについては少し疑問があります。更新後も2年間という縛りが妥当なのか疑問が残ります。これについては、後で書きたいと思います。

(続く)

消費者契約法

第二節 消費者契約の条項の無効

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第八条  次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一  事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二  事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の全部を免除する条項
四  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の一部を免除する条項
五  消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
2  前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。
一  当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
二  当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二  当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。