消費者情報 2012年5月号 (関西消費者協会)

①特集「お客様相談室と消費者対応の役割」
消費者対応に力を入れている企業や団体が紹介されています。
どれもが知っておきたい企業や団体ですね。
特集記事を読むと、消費者対応部門の役割や考え方などが垣間見えます。
・花王株式会社
・日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会
・消費者関連専門家会議
・日本ヒーブ協議会
・消費者支援機構関西
・雪印メグミルク株式会社

②判例に学ぶ
生命保険約款における「無催告失効条項」の消費者契約法10条該当性に関する最高裁判決(平成24年3月16日判決)
・保険料を猶予期間末日までに支払わないときには保険契約が効力を失う旨を定めた条項が消費者契約法10条に違反するか否かに関するもの
・高裁では消費者契約法10条に違反すると判断されたが、最高裁では高裁の判断である「猶予期間」の解釈に誤ったものであり、無催告失効条項について保険料払い込みの督促をする運用を確実にしていたかなど消費者に配慮した事情につき審理判断することなく消費者契約法10条により無効であるとしたことに法令違反があるとして、原判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。
※消費者問題の中で保険約款の問題についてははるか昔から話題になっており、判例も踏襲されてきました。結局、今回の判断は差し戻されたので明確な判例とすることはできませんが、重要な裁判の行く末をしっかり見届ける必要があります。また、裁判では近年の消費者同行も反映されており今後も注目です。ぜひ読んでください。

(参考)最高裁判例

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82127&hanreiKbn=02
判示事項
保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに生命保険契約が失効する旨を定める約款の条項の,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性
裁判要旨
生命保険契約に適用される約款中の保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定める条項は,(1)これが,保険料が払込期限内に払い込まれず,かつ,その後1か月の猶予期間の間にも保険料支払債務の不履行が解消されない場合に,初めて保険契約が失効する旨を明確に定めるものであり,(2)上記約款に,払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額を超えないときは,自動的に保険会社が保険契約者に保険料相当額を貸し付けて保険契約を有効に存続させる旨の条項が置かれており,(3)保険会社が,保険契約の締結当時,上記債務の不履行があった場合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う実務上の運用を確実にしているときは,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に当たらない。
(反対意見がある。)

③現場からの情報 【テスト】 相談現場での製品事故対応の実際
相談現場での対応についてマニュアル的に解説されています

④団体訴権への展開  京都消費者契約ネットワーク
いわゆる冠婚葬祭互助会の積立金条項につき一部を無効として当該条項の一部の使用差止を認めた消費者団体訴訟による差止判決(京都地裁平成23年12月13日)
・冠婚葬祭互助会の中途解約金が消費者契約法9条1号の「平均的損害」を上回るとして解約金条項の無効を訴えたもの
・裁判では平均的損害は1回あたりの銀行振替費用58円のみとした
※これが判例として適用されると大きな話になりますね。しかし、実際に判決以後適用されているのかどうかわかりませんね。業界の動きをもっと知りたいところです。

(参考)京都地裁判例

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81939&hanreiKbn=04
判示事項の要旨
所定の月掛金を前払いで積み立てる方式による冠婚葬祭互助契約及び旅行等利用契約に関し,契約期間中に消費者が当該契約を解除した場合に,支払済み金額から所定の解約手数料を差し引くことが消費者契約法9条1号及び10条に違反するかが問題となった事案について,儀式の施行の請求前に冠婚葬祭互助契約を解約した場合に差し引かれる解約手数料のうち月掛金の振替費用相当額を超える部分及び旅行等利用契約にかかる解約手数料を差し引くことは同法9条1号により無効であるとして,原告らの請求を一部認容した事例

⑤ネット漂流 狙われた子どもたち Vol.1 「恥ずかしい記録」
様々な記録がデジタル情報として半永久的にネットに保存されている世の中の恐怖ですね。
軽はずみに撮影した写真が永久に残ってしまう怖さについて解説しています。
ひとごとではないですね。
実際に15年も前の未成年のアダルト画像が今でもネット上に流通している現実です。

リンクはこちらです
関西消費者協会 http://kanshokyo.jp/hp/
消費者情報 2012年5月号

規制強化の要因

自由と自己責任の下にさまざまな規制緩和が行われてきましたが、近年、規制強化の流れが、大きいところから小さいところまできているような気がします。
消費者問題の世界での権利と義務に似ているように思います。

生レバー(レバーの生食)が禁止になることが決まり波紋を広げています。
業界関係者は、「お店もお客もリスクを承知で食べているのに何の問題があるのか?」と発言する場面もあります。
全く違うと思います。
リスクを承知していないから問題なのです。
消費者は生レバーにリスクのあることを知りません。
おいしくて食感がよく、やわらかいから幼児でも食べることができる。貧血の防止にもなる。
デメリットよりもメリットだけに目を向けているのが自然な行動であり、健康食品の問題や金融詐欺の被害にあっているのは、その行動のあらわれだと思います。
それが問題であることは相談員なら良く知っているでしょう。

リスクを確認する方法は「注意表示」や「重要事項の説明」です。
例えば、生レバーを提供するときに、「このレバーは加熱処理していないためO157等の食中毒菌が付着している可能性があります。特にO157は少量でも食中毒を起こし、重症化することがあり、特に乳幼児では死亡のリスクがあります。生食される場合は、自己責任で食べてください。当店では責任をおいません。」というような注意喚起が必要ではないでしょうか。その約束を果たしてこそリスクを承知したことになると思います。極端な話かもしれませんが、契約書にサインをするのと同じですね。
また、ユッケでは提供にあたって「当店で提供するユッケは国の基準に沿った処理をしておりますので、安心して食べることができます。」等の表示をする。
製品と同じで、リスク(製品の場合であれば事故や誤使用)があるのであれば、こんなことが必要ではないでしょうか。

そして、ユッケの事件で規制が強化された原因は、お店がルールを守らなかったことです。
10数年前にカイワレ大根事件に始まったO157食中毒事件の集団発生で社会問題になったときに、中心部が75度1分の加熱などのガイドラインが出され、また、生食用食肉の衛生基準が定められました。生食用の食肉は生産される工場が数施設とわずかで、出回ることはほとんどなかったのにもかかわらず、自己判断で生食用食肉が出回っていたことです。
きっちりルールを守っていれば、大きな事件が発生することもないし、規制を強化する必要もありません。
ルールを守らないから規制強化をしなければならないという現実があります。

みなさまの身近なことでいえば、
公園・河川敷・海岸でバーベキューをしたあとにゴミに持ち帰りをせずに放置し、行政が何度も注意しているにもかかわらずルールを守れないので、仕方なく、バーベキューを禁止するということが報道されています。
花見でのゴミも同様に問題になり、花見の禁止の声も大きいです。
大量のゴミ。誰が処理するのでしょうか。
犬の糞の放置、はとのえさやり、電車内での携帯電話通話や座り込みなどマナー違反をあげたらきりがないです。
日本人は法律は守るがマナーは守らないような状況です。
飲酒運転や無免許運転など法律も守れない人もいますが、今後も規制強化が進んでいくのではないでしょうか。

あらためて、消費者の権利と義務について、考えてみましょう。
現場におられる相談員であれば理想と現実のギャップにジレンマを抱いてると思います。

季刊ダイレクトセリング

「公益社団法人 日本訪問販売協会」が「季刊ダイレクトセリング」という広報誌を発行しています。
2012年4月発行の118号に「コンプライアンス」のことが特集されています。
その中から、苦情対応研修の知る人ぞ知る柴田さんの記事を取り上げます。

この広報誌はWEBから最新号が閲覧できます。
公益社団法人 日本訪問販売協会
http://www.jdsa.or.jp/
季刊ダイレクトセリング
http://www.jdsa.or.jp/www/jigyo/shuppan-02/mokuji-10.html

特集
コンプライアンス教育をどのように推進するか
法令遵守はもちろんのこと、自主行動基準に基づく日々の業務の励行、高い倫理観に基づくセルフコントロールを含めたコンプライアンスの徹底のためには、販売員に対するコンプライアンス教育が不可欠である。今号ではコンプライアンス教育の重要性と進め方について識者からコメントをいただき、さらにコンプライアンス教育の実践事例を紹介する。

PART1 コンプライアンス教育を推進する決め手は「情報共有」にあり

話し手 柴田純男氏 柴田CSマネジメント㈱代表取締役

Q3 コンプライアンス教育で教えるべきことは何ですか

人間は、自分勝手に解釈する動物です。「自分勝手」は暴走するので、歯止めをかけなければなりません。たとえば、「あなた、私の話を聞いていないでしょう!」と、身近な人から怒られた経験はありませんか。耳がついていても、入ってきた情報のすべてを言われた通り「聞いている」わけではないのです。「耳で聞く」とは言いますが、耳には聞くための器官(鼓膜)があるだけで聞いているのは脳なのです。人間の脳には、自分にとって都合の悪い情報を遮断し、都合の良いものだけを選択的に受け取る機能があるのです。また、聞こえてきた情報を、自分の都合の良いように時にはねじ曲げて解釈するということもします。だから、自分勝手な解釈が入る余地がないように、具体化して教える必要があるのです。

Q5 コンプライアンス教育の成果は、どのように知ることができますか

そのための好材料となるのが、苦情対応事例です。多くの場合、訪問販売の販売員の行動は、本部でうかがい知ることはできません。現場で何を話し、それが相手にどう伝わっているのかは、密室の中の出来事であり、外からは見えないし、聞こえないのです。しかし、リスクマネジメントの根幹は、第一線の現場で起きていることを知ることにあります。ハインリヒの法則で言われるように、1つの重大な違反の背後には同じ傾向の29の軽微な違反があり、その背景には300のヒヤリハット(ヒヤっとしたり、ハッとする事柄)が存在します。その300事例を見過ごせば、必ず重大事故につながります。けれども、販売員1人ひとりの背後に監視員をつけることは到底できません。 ヒヤリハットを知る唯一の手がかりが消費者からの苦情です。ひとつの会社の中で苦情の原因になった販売員の問題行動を共有するだけでは十分ではありません。いま、問題が起きていないからといって、将来的に大きなトラブルが起きないという保証は全くないのです。
コンプライアンスには、対症的コンプライアンスと、予防的コンプライアンスの2つがあります。何かが起きたときの対応が前者であり、起きる前の対処が後者です。そのときに役に立つのが、日本訪問販売協会の相談室からの報告です。その内容が、全会員企業に伝わっているでしょうか。その事例を詳細に調べて、「我が社の訪問販売でそのような苦情が発生したら」とシミュレーションして、その対策を全社で共有することによって初めて、重大な違反の防止につながるのです。
人は、実際に起きた事例を通じてしか、深く学ぶことはできません。事例検討を深め、その内容を全社に発信できるような、キーパースンが必要です。そして、繰り返し学ぶ場を作らなければなりません。人は、忘れっぽいので、学習を繰り返さなければ根付かないので、フォローアップが必要です。

特に、この前段の赤字にした部分です。
相談員として、自分勝手に解釈して暴走すると公的機関としての消費者センターの威信にもかかわります。
まわりの人からのアドバイスを真摯に受け止める姿勢が大切だと思います。
また、後段にある「キーパーソン」。相談員のスキルアップや職場のコンプライアンスを推進するためには「リーダー」がほしいところですね。

私も柴田さんの苦情対応の研修を受けたことがあります。
特に、心理学的な見地からアプローチするコミュニケーションに精通しており、とても勉強になり、実践にも活用できます。
私も相談者や事業者の気持ちを考えたコミュニケーションが重要であることは何度も記事にしています。
今回はコンプライアンスが題材ですが、柴田さんの苦情対応の研修を受ける機会がありましたら、お金を出してでも、ぜひ受講されることをおすすめします。

柴田CSマネジメント
http://www.shibata-cs.com/index.html