相談業務はコーチング

「名選手、名監督にあらず」という言葉があります。
現役時代にすばらしいものをもって活躍していた選手が、今度は指導する側である監督や、コーチになったときに、あまり、芳しい成績を残せないケースが多いことから、このような言葉が生まれたようです。

最近は、柔道での暴力、高校部活動での体罰、少し前には大相撲での暴行など、指導者の資質が問われる事件が続いています。

同様の問題は日本社会に広く根付いている問題であり、一朝一夕に解決することはないと思います。この件について語りだすと無限に続くのでおいておきます。

日本人は伝統的に、また、民族的にコーチングが不得意であることからきていると思います。
身近なコーチングである「子育て」も上手くいかないことが少なくありません。

コーチングには様々な定義の解説がありますが、「相手の自発的行動を促し、問題解決や成長する手助けをしてあげること」だと思います。

ティーチングは自分の知識や技術を相手に伝えることが目的であり、教えたこと以上のことを相手に伝える必要はありません。したがって、教えられた側はティーチャー以上の知識レベルになることはできません。そうなるためには自分自身で努力しなければなりません。
一方、コーチングは、相手の目標を達成するための方法や道筋を教えるのであり、成果をあげるかどうかは本人次第です。したがって、コーチ自身の持つ知識や技術レベルとは関係ありません(もちろんもってるにこしたことはありません)。スポーツで考えると簡単であり、スポーツの経験がないコーチや監督でも選手は成果を上げていますし、世界記録を持っている選手のコーチが選手より速いわけはありませんからね。

コーチングというのは、突き詰めれば、レベルの高いスキルです。

消費生活相談というのは、相談員が積極的に事業者と交渉しあっせんすることもありますが、本質的には相談員が消費者に解決方法を伝える「助言」が基本となっています。一種のコーチングですね。したがって、コーチングのスキルが重要となるのです。このコーチングには、コミュニケーションスキルが欠かせません。
いくら相談員に知識があっても相手にうまく伝えることができなければ役に立ちません。
私がコミュニケーション能力が重要であると主張しているのは、コーチングの本質がコミュニケーションスキルのあるからです。そして、相談員の能力もこれで評価することができます。

次回は相談員の能力を判断する目安について書きたいと思います。

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「赤ちゃんの泣き声は騒音か」 その4(解説・最終回)

◆空では航空会社がリーダーシップを!◆

引用⑥

でも、JALの方々の真撃な応対に面して、だんだん心が休まってきた私。

→傾聴の姿勢ですね。反論せずに、話を聞いてあげることで、落ち着いてくるという、現場でも必須のスキルです。

引用⑦

「航空会社だけに責任と改善策を求めるのではなく、乗客の側からも公共マナーに関する議論を起こしていくべき」と感じるようになります。

→自分の怒りの感情を乗客全員の問題に転嫁させて自分自身を正当化・納得させようとしています。

引用⑧

いまのJALがこんなに親切なのは、破綻して世間に迷惑をかけてしまったことへの反省と、JALブランドへの衿持との、両方に支えられてのことだと思う。いまは民間の会社になったけれど、戦後、国に支えられてつくられた歴史に対する責任はずっとあるし、私たちにも「JALは日本を代表する航空会社」との思いがある。再上場でスタートを切り、またLCC(格安航空会社)の参入などによる価格競争にさらされているいまこそ、空の旅の常識を改善していくいい機会なんじゃないかしら。

JALの整備工場のあちこちにも「備品を大切に使いましょう」的な張り紙などがあり、経営努力しているのは十分に感じられる。LCCとの価格兢争にさらされても「お客さまへのサービス品質を下げないことが、われわれの務めです」と、機内での飲料無料は貫き通している。頑張ってるよね。でも、いまのJALはちょっと弱腰で気の毒。まだ乗客に物言いできる状況じゃない。

→JALが破綻したから親切な対応をしたと考えていますが、破綻してもしてなくても、今回の対応は基本的な対応で、基本的にはそれとは関係ない話だと思います。
→「JALがかわいそう」「こんなクレームになったのもJALがかわいそうなことになったからだ」と、クレームの原因をJALのかわいそうな立場に転嫁させています。幕引きを探しているような気もします。

引用⑨

「私はね、JALからも乗客マナーについて発信してもらいたいと思うの。空では乗客を啓蒙できるのは、やっぱり航空会社なんだから。こうして私に会ってくださったのはうれしいけれど、気を使いすぎても乗客のわがままの増長につながって、安全性や快適性を損なうかもしれないでしょう?」

私も今回、シートベルトを外して、着陸時に通路を歩いたことは反省し、謝ります。でも、航空法や搭乗規定、機内の装備だって数十年前につくられたそのままじゃなく、改善できるところはすべき。JALの乗客に気を使う気持ちは十分に伝わったけれど、企業として凛とした態度は保ってほしい。たしかに破綻以前の少し倣慢なJALに戻ったら困るけど、「腰を低くして、角を立てないよう」動くのでなく、一航空業界の発展のため、乗客を教育する」プライドと誠意をもって動いてほしい。飛行機だって、空気の抵抗を利用して飛ぶんだもん。批判や既成の常識との軋轢を恐れるのでなく、それらを正しく利用して、世界一安全で快適な空の旅をつくり上げてほしい。魂の入った格好いい乗務員、社員を育て上げ、日本人の素晴らしさを発信してほしいな。それこそが、破綻に対する本当の責任の取り方であるはず。「乗客のわがままにも精いっぱい応えなきゃ」と変な気を使ってばかりいたら、もったいないよ。

→「赤ちゃんの泣き声が迷惑だ」という最初の問題が「乗客のわがまま」という解釈に変わり、そのわがままに対応するのはもったいないということになっていますが、「シートベルトを外して、着陸時に通路を歩いたこと」が一番迷惑なわがままで、法律を変えろという要望もわがままだったのではないかと思ったりもします。自分自身の違反行為を正当化しようとしています。

引用⑩

あと、ユーザーも「ただ安ければいい」といういまの流れが本当にいいのかは客観視しないとね。「安全」と「質」を担保するには、ある程度の出費は必要だもの。高速バスじゃないけど、現場の人が劣悪な状況で働かなくていいよう、設備改良のための投資ができるよう、払うものは払わないと。でも、エコノミーとファーストと、価格の開きがありすぎるのは疑問。変なところは直して、「適正価格」を保持してほしいな。あと、日本製の航空機もつくってほしい! 戦後の日本の航空業界は、「敗戦国に航空機をつくらせてはいけない」という空気のなかで、アメリカ主導できちゃったのが現実。そういう事情を国民が知って、日本の企業が開発に取り組むのを応援しなきゃ。

→今回の問題はユーザーにも問題があるという考え方に転嫁させている

引用⑪

「なんていうことを私的には発信していこうと思うんですが、こんなクレーマーでも、また乗せてくれる?」

そういったら、「ぜひ!」といってくださいました。JALの羽は、優しくて懐広いなあ。わがままなうえに身体も弱く、さらにファーストクラスに乗るお金はない勝手な私ですが、途中下車できない空の旅には、やっぱり快適性を求めずにはいられません。どうぞ妥協を許さず、改良し続けてくださいね。日本のJALから世界のJALへ。心身一如の真のブランドであり続けてください!

→自分の意見を言い尽くし、その意見を正当化したため、やっと納得(勘弁)してくれたという合図です。
→JALの「対応に苦労する消費者」への対応はお見事です。ここにたどりつくまで面倒ですが、それが相談員の宿命です。

今回のクレームは結果的に、共感を生まない「文句言い」になっただけでした。条件が平等な中、自分だけが「感情的」になってしまった。その怒りの対象は法律違反ではないマナーの問題です。マナーを守らせろという言い分になってしまっていますが、提案している要望もできることはすでにされています。こぶしを下げれなくなってしまい、「あるべき論」に話を変えてきました。「あるべき論」はここでは根本的な解決はできません。JALにはあっさりあしらわれたという感じでしょうか。単にJALが基本的な対応をしただけです。相手は、「言い合い」を待っているのですが、それには乗らず、相手を否定することもせず、相手を受け止めてあげましょう。
このようなJALの冷静な対応を相談員としても参考にしてください。

最後に、飛行機の中の乗客全員の前で、ののしられたお母さんはつらい思いをしたままなんだろうなあ。結局は、あのお母さんへの配慮やフォローが何もありませんでしたね。ここまで思ってあげるのが相談員マインドだと思います。私がこのクレームの相談を受けたなら、冷静になったころあいを見て、相手に「つらい思いをしたお母さんの気持ちも考えてあげて欲しい」とひとこと助言したいところです。

最後に
課題演習のポイントを感じ取ってもらえたでしょうか。
今回の事例は無理難題を押し付けられているのではなく、法令等に基づく議論をすればいいので、比較的簡単ともいえます。
相談現場では、明確な答が存在しない「すき間案件」がたくさんあります。製品事故の安全性などが最たるものです。事故の原因が誤使用や不注意に当たるのか製品に問題があるのか、安全基準が定められていない事案などたくさんあります。
このような解決が難しい案件に対して「対応に苦労する消費者」から相談を受けた場合は、一歩対応を誤ると、相談員やセンターへ矛先が向かいます。
相談者から無理難題を押し付けられたときに、即反論してしまうのではなく、反論したいけど納得しないのが目に見えている場合は、感情的に反論せず冷静に受け止めることからスタートしましょう。
今回のJALの対応は「反論せず、受け止め、冷静に法令等を説明する」という方法であり、相談対応の基本だと感じました。