犯人探し

原発関連の事故では、誰が悪いのか、なぜあんな対応をしたのか、など犯人探しのようなことが連日報道されています。
確かに過去の失敗を振り返り、教訓にして今後に生かすことはとても大切だと思います。
しかし、最近は度が過ぎているような気もします。
あのとき、あの状況では、誰もが最善だと考えた対応をとっているはずであり、それがいつも正解とは限らないこともありえます。
当然ながら、様々なレベルでのミスはあったと思います。
擁護するわけではありませんし、被災者にとっては許しがたいことだということも理解しています。

失敗したときに最も優先すべきことは、過去を振り返ることよりも、今の状況をできるだけ早く正常に戻すことです。
関係者には、失敗を責めるよりも、今、そしてこれからの対応に全力で取り組んで欲しいと思います。

このことは、相談現場そのものです。

例えば、詐欺まがいの商法の被害にあった相談者に対して、「誰もが詐欺と分かる話に、なぜのってしまったのか」などと発言してしまうことがあります。
これは、相談者の行動を非難しているわけであり、心理的に大きくマイナス方向に働いてしまい、「被害にあって相談に来たのに、被害にあったことを怒られてしまった」と感じてしまいます。
これでは、相談者ががんばって被害の回復を図ろうとするモチベーションが低下してしまい、今後のあっせんに支障が出ることもあります。
慎重に言葉を選ぶ必要があります。

大切なことは、「済んでしまったことを批判するのではなく、今、困っている状況を全力で助けてあげるために前へ進むこと」です。
すべてが解決したならば、次からは気をつけましょうとなりますし、本人自身も十分学んでいるのではないでしょうか。

この考え方の基本は、「コーチング」にあります。
特に、スポーツの現場で指導者に求められるスキルとして頻繁に紹介されています。
「コーチング」については、別の機会に書きたいと思いますが、キーワードは、「過去は変えられない」ということです。
ぜひ、相談現場で意識してください。

今後の悪質商法

消費者センターの最前線で相談業務を担っている相談員は、今後予想される悪質商法のセンサー機能を持つ必要があります。
国民生活センターが直接相談でセンサー機能を持つという話もありましたね。
私は現場のセンサーが一番大切だと考えています。

今、話題の悪質商法といえば、震災関連商法です。
震災関連商法といえば、家屋の工事に関するものが代表的です。
阪神大震災のときは、基本的には家屋の工事に関するものに注意し、被災地域だけに限定されるものでした。
しかし、今回は規模が大きいだけではなく、原発関連も含めて、被災地だけではなく全国的に注意をする必要があります。
ということは、震災関連の悪質商法に関する相談は、被災地だけではなく、全国に広がる可能性が高いということを認識しておく必要があります。

では、どんな悪質商法が問題になるのでしょうか?
相談員として考えてみてください。
誰よりも早く、悪質業者が悪質商売を始める前に、想定しておく、まさに最前線のセンサーとして機能してください。

現在表面化しているものは
義援金詐欺、放射能を除去する浄水器、エネルギー関連での投資商法などです。

今後のポイントは、節電だと思います。
原発停止によるエネルギー不足は関東圏だけではなく、中部圏にも広がり、電力の融通のため関西にも広がっています。
また、脱原発に向かっている状況から、全国的に実需の電力消費量を下げる必要があります。

(発電)電気を自分たちで確保しよう・・・太陽光発電、エコキュート、ガスによる発電(エコウィル)
(リフォーム)冷房暖房を使用しない節電対策・・・ガラスサッシ、断熱材、通気性の良いドアや窓
(電気製品)冷蔵庫・洗濯機・エアコン・電灯などの省エネ電気製品の訪問販売
(衣料品)クールビズ(スーパークールビズ)、ウォームビズなどの衣料品関係の訪問販売
(食品関係)放射能の不安、浄水器、ヨウ素、被災地での農産物の減少から予想されるコメなどの不足による抱き合わせ商法
などなど、数え上げたらきりがありません。
阪神大震災と違うところは、対象が日本全国に及んでいるということです。

悪質商法の第一歩は訪問販売です。
被害にあった消費者が迅速に消費者センターに相談に来てもらえるようにし、特商法や消契法、民法、特に高齢者に高額なものを販売するという適合性の問題など、きっちり相談対応できるように、また、事前にそうならないように啓発する(広報・訪問販売お断りステッカー)など、消費者センター・消費生活相談員の存在価値を高めてください。

ただし、節電対策として、節電商品を購入したり、リフォームしたりするのは、よいことだと思います。
メーカーも全力で節電対策商品を開発し販売しているのです。
それに便乗してだれかれかまわず高額で売りつける悪質業者が許されないのです。
消費の原則として、それぞれの人に見合った、必要なものを、身の丈に合った範囲で購入するという基本が一番大事であることには変わりません。

バランス理論 その2

相談現場でのバランス理論を解説します。

相談現場では相談者が第一であり、相談者を中心に考えます。
相談者の対象とするものは、事業者への苦情です。
関連する項目としては、消費者センターや相談員となります。

前回の関係でいうと
私が相談者
相手のAさんが消費者センターや相談員
対象のBさんが事業者
この三者の関係になります。
最終的には、私(相談者)が「快」の状態になれば、相談対応に満足したものと考えられます。一方、「不快」の状態になれば相談対応に不満足であったということになります。

すべての相談を「快」にするのは難しいかもしれませんが、可能な限り「快」にできるように努力したいものです。
そして、思った以上の「不快」が実は「快」に変えられるということも知っておいてください。

今までの内容を読んでいただいたら、おそらく理屈的には簡単に理解できたでしょう。
思ったことを、いかに実行できるかが相談員の能力となります。

相談現場での最初の3者の関係は分かりやすいですね。
相談者→事業者・・・(-)
相談者→相談員(消費者センターを含む。以下同じ)・・・(+)
相談員→事業者・・・(?)

相談者は消費者センターを信頼して助けてくれて味方になってくれるというのが前提ですので、「相談者→相談員」の関係は(+)となります。
そして、問題は最後の「相談員→事業者」の関係です。
バランス理論も何も当たり前の話ですが、「相談員→事業者」が(-)、すなわち、消費センターが相談者の主張を認めて、事業者は悪いので、あっせんして取り返しましょう、とすると、(-)×(+)×(-)=(+)となり、相談者は「快」の状態になるのです。

しかし、相談員が相談者の話を聴いてみると、「それは事業者の言うとおりで相談者に責任がある」、とした場合、すなわち、「相談員→事業者」が(+)とすると、(-)×(+)×(+)=(-)となり、相談者は「不快」の状態になるのです。当たり前といえば、当たり前ですね。このままでは、あっせん不調になり相談者の不満がたまってしまいます。

では、どうすればバランスの取れた「快」の状態になるのでしょうか。
前回説明したように、何かが変わればいいのです
つまり、相談員が相談内容について消費者センターとしての考えや一般的な考え方を相談者に分かるように説明し、理解してもらうのです。そうすれば、最初は事業者がおかしいといってたことが、それだったら事業者の言うことも分かった、となり、「相談者→事業者」の関係が(-)から(+)にかわるのです。
相談者→事業者・・・(-)→(+)に変化
相談者→相談員・・・(+)
相談員→事業者・・・(+)
(+)×(+)×(+)=(+)となり、相談者は「快」の状態になるのです。

「相談者→事業者」の関係を(-)から(+)に変化させることが一番重要なんです。
ところが、「(-)から(+)に変化させる」というのは言い換えれば、「説得する」ということです。
実はこの「説得のコミュニケーション」は一つの難しいスキルであり、そう簡単には会得できないし、会得できれば、相談員としての資質もハイレベルのものとなります。
相談者を(-)から(+)に変化させることができずに怒らせてしまうのは、もっと先を見れば、「説得のコミュニケーション」のスキルが不足していることを意味します。
それはそのとおりですよね。相談者のいうことが正しいと受け止めて、事業者にカツをいれて、取り返してあげることができれば、相談者とのコミュニケーションにおいて、不快な部分は全くありませんね。いつもいつも、そのとおりにいけば楽なんですが、現実は違います。

さて、相談にが相談者を「(-)から(+)に変化させる」ことができなかった場合に、相談者はどうすればバランスの取れた状態になるのでしょう。
もうお分かりではないかと思います。
「相談者→相談員」の(+)の関係を(-)に変えればいいんです。
そうすれば
相談者→事業者・・・(-)
相談者→相談員・・・(+)→(-)に変化
相談員→事業者・・・(+)
(-)×(-)×(+)=(+)となり、相談者は「快」の状態になるのです。
しかし、この「快」の状態というのは何を意味するのでしょうか。

信頼して相談に来た消費者センターを(-)にするのですから、「役に立たない消費者センター」「税金泥棒」「マスコミに訴える」「投書する」「上部の組織にいいつける」「他のところに相談に行く」となってしまいます。
どうしても、こうならざるをえないこともありますが、上手に説得して、こうならないようにしましょう。

もう一つ追加しておきます。
相談者→事業者・・・(-)
相談者→相談員・・・(+)
相談員→事業者・・・(+)
この不均衡な状態に対して、相談者が、あくまでも「相談者→事業者」の(-)を主張するために、「相談員→事業者」の(+)を(-)に変化させようとするのです。つまり、相談員の説明に対して、納得していない、なぜそうなるんだ、とねばります。そして、最後には「他の相談員に代われ」「所長に代われ」となります。対応する人が変わると、「相談員→事業者」の(+)が(-)に変わるかもしれないと期待するんです。もちろん変わるわけはないですよね(変われば相談いの対応が間違っていたことになります)。
心理学的に考えれば、「他の相談員に代われ」「所長に代われ」となることは、誰にでも起こりうるし、特に、相談者が悪いからこうなるわけではなく、心理学の自然な流れであるいということも理解できると思います。
相談員にとって、「他の相談員に代われ」「所長に代われ」といわれ、最終的に、代わって説明して相談者が納得した場合に、それが「説得のコミュニケーション」のスキルが不足していたことに由来しているのであれば、相談員として屈辱ですね。しっかり、どうやって説得したのかを事後検証してスキルを学びましょう。

最後に、
相談者→事業者・・・(-)
相談者→相談員・・・(+)
相談員→事業者・・・(+)
この不均衡な状態のまま、このバランス関係の内容をすりかえて、相談者に納得してもらう(分かってもらう)方法があります。事実ではなく、感情で関係を改善する方法です。それについては別の機会に書きたいと思います。

(平成23年5月18日 初稿)
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