バイアスを持たないようにする

バイアス(bias)とは聞きなれない言葉ですが、心理学や統計学ではよく出てくる言葉です。
その意味は、「先入観」や「偏見」などと説明されています。

ネットで検索すれば多くの解説があります。
このバイアスは相談業務に非常に重要な要素であり、相談員のスキルにもあらわれます。
バイアスによって正しい解決法方法の提示ができなくなるのです。

バイアスの考え方は、今後、私も数多く使うことになります。

消費者センターにいれば、世の中悪質商法だらけだなと思ってしまうことは自然なことです。
声をかけたれたら、疑いの目を持ったり、常に疑心暗鬼になります。
相談員という職業は、消費者を守るという使命があり、その使命感から、いわゆる「正義」を貫くのは当然です。

しかし、この世界にどっぷりはまってしまうと、一般の世界(一般論)からどんどんかけ離れていきます。
そして、相談員の事象に対する解釈が、「いきすぎ」になり、正常な判断が下せなくなります。
相談員の非常識が消費者目線や現実目線でみると常識になっている場合もあります。
また、プライドゆえに「思い込み」が激しく、指摘されても認めたくないと受け入れを拒否してしまうこともあります。
ともすれば、相談員自身が事業者に対してクレーマー化してしまう恐れもあります。
「正義の味方」という名のクレーマーが消費者だけでなく、相談員にも当てはまる場合もあるのです。

それらの要因は、まさしく、「先入観」や「偏見」や「思い込み」です。

苦情相談が多い事業者は、最初から悪質事業者として考えていませんか?
しっかり、相談内容を分析してから判断してください。
もちろん、公認された?悪質な事業者であれば、問題ありません。
しかし、過去の経験はあくまでも参考程度に考え、冷静に目の前の事案を分析して過去と照らし合わせてください。

このバイアスについて、「S社の携帯電話」「出会い系サイト」などを事例にして具体的に【会員用ページ】で紹介したいと思います。

(平成22年4月8日 初稿)

相談員に必要な能力・スキル

相談員にはどんな能力・スキルが必要でしょうか。
これを真剣に考えたことがありますか?
どうやってスキルアップしたらいいのか分からない。
研修にはたくさん参加しているのですが、それではだめなんですか?
そもそも、どんなことに対してスキルアップすればいいのですか?
などなど。

相談を受けて終了するまでの流れを簡単な時系列で順を追って分解していくと見えてくるのではないでしょうか。
その中で、できていない部分があれば、そこを意識していけばいいのです。
ただし、そこが発見できても、具体的にどう学べばいいのかわからない場合が多いでしょう。
なぜなら、そういう部分は主にコミュニケーション能力を構成する要素であり、そのような研修はあまりされていないからです。

この「消費生活相談員スキルアップ講座」では、コミュニケーションに注目して、スキルアップにつなげていこうと考えています。

相談の流れ

消費者と相談員
①あいさつ(ファーストコンタクト)
②きく(聴く)スキル
③ききながら論点を整理する(知識・ロジカルシンキング)
④不明な点や補足点をきく(知識・ロジカルシンキング)

相談に対する見解を説明する(知識・問題解決スキル、ロジカルコミュニケーション)

振り分け作業
消費者センターで受けない→適切な機関を紹介(説得)→終了
消費者センターで受ける

受ける場合
相談者の要望に同意しない(説得)→終了
相談者の要望に同意する・・・具体的な提案をお互いに確認し、事業者との斡旋に入る

相談員と事業者
苦情相談を申し出る・・・内容を簡潔に説明する(プレゼンテーション)
要望に関して交渉する(交渉)
決裂した場合→斡旋不調→適切な機関を紹介(説得)→終了
合意した場合→斡旋解決→終了

おおざっぱな流れではありますが、結局、この中で知識に関することは、「相談に対する見解」にかかわる部分のみです。
そして、これは事実として誰が回答しても同じ内容となります。
すなわち、回答が同じだけに、実は知識の習得レベルに差があったり不足しても、調べたり他の相談員に聞いたりすれば、基本的には消費者センターとしての見解に達します。
もちろん、その場合は相談時間が長くなったり相手を不快にさせたりすることがあります。

そのほかは、すべてコミュニケーションが必要であり、個人の能力差が大きく影響します。
特に説得は非常に難しいスキルです。

以上の流れの中ででてくるコミュニケーションスキルについては、今後、本講座の中で具体的なケースを紹介しながら解説していきます。

(平成22年4月1日 初稿)

はじめに

全国の消費者センターで活躍されている相談員のみなさま、これから相談員を目指し勉強されているみなさま、ようこそ。

消費者センターに寄せられる相談は、日々年々変化しています。
数年前には思いもしなかった技術革新、悪質手口、商品事故など消費者問題はより複雑なものとなっています。
相談員自身の知識をもっと深めなければついていけません。
また、消費者の意識の変化もあり、求められる要望もさまざまとなっています。

平成21年9月の消費者庁の誕生により、消費者センターおよび相談員に期待が寄せられています。
さらに、地方消費者行政活性化基金により、消費者センターの機能強化のために予算がついています。
その予算を使って、相談員の資質向上をはかるべく、さまざまな研修が行われています。
しかし、そのほとんどが大学の先生や専門家などによる知識を深めるための研修となっています。
それらの研修を受ければ知識や問題解決手法は身につきますが、それで相談員としての真の資質が向上するのでしょうか。

私が一番重要と考えるのは、コミュニケーション能力です。

いくら知識や解決方法を熟知していても、相談者の話を聴いたり、事業者に説明したり、説得したり、という人間を相手にする基本的な能力がなければ知識を発揮できないばかりか、コミュニケーション不足により相談対応が不調に終わり、結果として相談員としての役割を果たせなくなってしまいます。
以前であれば、そこまでのコミュニケーション能力が求められずに解決できてしまう時代だったかもしれません。
現実に、ベテラン相談員を含めて、知識はあってもコミュニケーション能力に問題のある相談員が多くなっているのではないでしょうか。
蛇足ではありますが、大手メーカーのお客様担当部門を含めて、事業者のコミュニケーション能力も不足しているのではないかと感じています。

ではなぜ、コミュニケーション能力を向上させるための研修が少ないのでしょうか。
私が思うには、そのような研修ができる人材が少ないということが考えられます。
さらに、地味で根気の必要な研修となり、相談員の社会常識や人格を否定しなければならない場面もあり、消費者センターの相談員に特化したカリキュラムを組むことは容易ではないと思うのです。
そして一番の理由が、知識を深める研修のほうが講師を見つけやすくパターン化しており開催しやすく、相談員にも受け入れやすいからだと思います。
そのような知識を深める研修をたくさん受けた相談員は、充実感を感じ、自らも資質が向上したと錯覚に陥る危険性があります。

この「消費生活相談員スキルアップ講座」では、コミュニケーション能力のスキルアップを私流のやり方で目指したいと思います。
知識や問題解決手法は誰でも同じ能力を得ることは比較的容易ですが、コミュニケーション能力を得るのは簡単ではありません。
私流が絶対の「正解」だとは思いません。考え方や受け止め方は人それぞれで、「答え」はたくさんあると思います。
いろんな考え方を知ることが大切だと思います。
この講座では、人間対人間のコミュニケーションを円滑にするために、さまざまな手法を使いながら、バランスの取れた対応能力の獲得を目指します。

私は純粋に相談員のみなさまの資質向上を願っています。

(平成22年3月1日 初稿)
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