消費者情報 2012年11月号 (関西消費者協会)

今月号から気になる記事を紹介します。

①特集 改正貸金業法を検証する
・インタビュー「改正貸金業法」完全施行2年を振り返る
・データで見る改正後の貸金業界の動向と現状
・「改正貸金業法」完全施行から2年の現状と課題
・経済弱者層に浸潤するヤミ金融 過度な規制の見直しを
・相談現場からの報告
「おせっかい」精神が市民を救う 多重債務者の発見と支援の仕組みづくり
多重債務問題に軸足を据えて
・消費者委員会(第98回)「改正貸金業法」概要報告
・多重債務問題、法的解決への道筋 債務整理の4つの解決手段
→自己破産・免責、個人再生、特定調停、任意整理についての解説です
・相談スキルアップ窶・I多重債務問題に関する聞き取りのポイント
→センターによっては多重債務相談を受けるかどうか、どこまで受けるかが異なりますが、対応すべき内容が分かりやすくまとめられています。ほかの相談でも同じですが、借金を少なく申告する相談者の場合解決が頓挫することがあるので、ありのままを話してもらうために信頼を得る対応が必要だというのは同感です。
※改正貸金業法が正しかったのかどうか、様々に議論されています。確かに、大手サラ金が倒産したり、銀行系列に吸収されたり、過払い金問題が継続中であったり、短期のつなぎ融資ができなくなったり、貧困ビジネスが問題になったり、立場立場で意見が異なるのは仕方がありませんね。貸し金が必要だという声があっても、歴史を見ていくと、大きな波に飲まれるのはどこでも同じだと思います。ちなみに、日本消費者金融協会の業界誌の「クレジットエイジ」12月号では「貸金業法改正に見る政治の失敗」として特集が組まれています。

②多重債務キャラバントーク ワタシのミカタ
地方における多重債務問題に対する活動報告
・岡山県真庭市は弁護士がいなかったが、弁護士会等の支援により巧拙事務所が設置され、弁護士1人が勤務することになった。
・地方特有の多重債務問題がある
・債権者が債権回収の相談にきた場合、利益相反により多重債務者の相談・依頼を受けることができなくなる。狭い地域に弁護士が1人しかいないという限界を感じる。

③現場からの情報 【相談】 元本割れリスクのある外貨預金
元本割れリスクのある外貨預金
※これはひどい商品ですね。結局、契約書に書いてあれば、勧誘時の言った言わないの話は無効にされてしまうのが問題ですね。

④現場からの情報 【製品事故】 製品事故を未然に防ぐ
・安全確保の3要素・・・人間・製品・使用環境
・OKAトライアングル(安全性確保の概念図)
・製品での安全確保・・「本質安全設計/防護装置/警告・注意表示」の③ステップ
・技術基準や規格についての考え方
・「ルールベース」から「知識ベース」へ社内基準の考え方
・安全対策上の8つの障害
・まとめ(課題と方向性)
※技術職員や商品テスト担当者のいないセンターでは製品事故の対応が難しい場合もありますが、今回の記事は製品事故・製品安全の基本的な考え方をNITEが解説しています。少し難しい書き方をしているところもありますが、ぜひ読んでください。

⑤判例に学ぶ
「消費者金融の不動産担保ローンへの「切替」について充当計算を否定した最高裁判決」最高裁平成24年9月11日判決

・無担保ローンを「おまとめローン」として不動産ローンを契約し複数の借り入れを精算し一本化した。
・無担保ローンには過払い金があり、実は借り換え時に完済できていたことが分かったが、おまとめ時にそれを充当すべきとの主張に対して、別個の契約として、この二つの取引が一連のものであるということを否定した。
・無担保ローンがリボ払いで貸付と弁済が繰り返されるのに対して、不動産ローンは元利金等弁済であり、別個の契約となり、無担保ローンの過払い金は時効である。
※いつもの判例開設に比べて難しい法律解釈が少ないので読みやすいです。
最高裁判例を抜粋しておきます。
裁判所トップページ > 裁判例情報
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82533&hanreiKbn=02

判示事項
無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約に基づく取引により発生した過払金を不動産に担保権を設定した上で締結された確定金額に係る金銭消費貸借契約に基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解することの可否
裁判要旨
同一の貸主と借主との間で無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約に基づく取引が続けられた後,改めて不動産に担保権を設定した上で確定金額に係る金銭消費貸借契約が締結された場合において,第2の契約に基づく借入金の一部が第1の契約に基づく約定残債務の弁済に充てられ,借主にはその残額のみが現実に交付されたこと,第1の契約に基づく取引は長期にわたって継続しており,第2の契約が締結された時点では当事者間に他に債務を生じさせる契約がないことなどの事情があっても,当事者が第1の契約及び第2の契約に基づく各取引が事実上1個の連続した貸付取引であることを前提に取引をしていると認められる特段の事情がない限り,第1の契約に基づく取引により発生した過払金を第2の契約に基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解することはできない。
(補足意見がある。)
参照法条
民法488条,利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項

⑥団体訴権への展開
「国民生活センターの国への意向に引き続き注視を」

※「国民センターの国への移行」「国民生活センターの新たな位置付け」について簡潔にまとめられています。
私は言うほど興味は持っていません。どちらに転がっても、結果は見えているからです。今までとたいして変わらない様な気がします。唯一、国民生活センターが直接(間接的でも)有効的な行政指導をしてもらいたいという希望はあります。とはいえ、結局は国と現場との距離や考え方は遠く現場で自分たちでがんばらなければならないと思います。。

⑦暮らしと経済「あなたの思考は指数型? 双曲型?」
・「あなたは今の1万円と1年後の1万円のどちらを取るか?」
・今の1万円は現実のもので、将来の1万円は不確かで1年待たねばならないので、今の1万円よりも劣る。これがお金に利子がつく理由の一つとなっている。
※経済の基本的な話で改めて読むと勉強になります。今回は貸金業法を例に考察されていますが、私は真っ先に「オプション取引のプレミアム」が頭に浮かびました。

⑧ネット漂流 Vol.6 「炎上する“ネットいじめ”の裏側」
・いじめ問題がネットで取り上げられると新聞とは少し違うものとなる。
・ネットでは誰もが書き込みできるため、炎上することがある。
・炎上して盛り上がると、そのサイトへのアクセス数が増えて、広告収入で利益を得ることができる。
・利益を得るために意図的にあおることもある。
・ネットでは、いつまでも書き込みは残り消えることがない。
・面白半分であげた動画もひとり歩きしてしまう。
・子どもたちはお金のために動く大人に利用されている。
※ブログやツイッターなどで気軽に情報を発信できる時代になりました。何気なく発信した情報が社会的に問題になったとき、2ちゃんねるなどで本人を特定する行動が連鎖的に発生し、糾弾される。本人は再起できないぐらいに叩きのめされる。まさに、「ネットいじめ」です。情報発信する側はそのことを十分に理解しなければならないと思います。

リンクはこちらです
関西消費者協会 http://kanshokyo.jp/hp/
消費者情報 2012年11月号

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怒鳴られることが仕事(朝日新聞 2012年11月7日)

朝日新聞2012年11月7日朝刊の「ルポルタージュ現在」に掲載された記事を紹介します。
朝日新聞のHPでは冒頭の一部を閲覧できます(全文閲覧には有料契約が必要です)。

もしよかったら、職場やご自宅、図書館で閲覧してください。

朝日新聞デジタル 記事 2012年11月7日03時00分
http://www.asahi.com/national/intro/TKY201211060698.html

きょうも電話で怒鳴られる〈ルポルタージュ現在〉

「ぶっ殺す」
電話を取ると同時に、太い声が耳に突き刺さる。1分ほど待たせた相手の怒りは初めから全開だ。

沖縄県浦添市にあるヤマダ電機のコールセンター。仲宗根彰平さん(20)はひたすら謝り続けた。通話が長引けば、待たせる電話がまた増える。悪循環だ。

「僕が怒られてるわけじゃ…

写真:絶え間なく電話を受け続けるオペレーター。女性が6~7割を占める=沖縄県浦添市、矢木隆晴撮影

冒頭の最後は

「僕が怒られてるわけじゃない。たまたまぶつけられてるだけ。」働き始めて1年半。こんな電話を受けるたび、自分に言い聞かせている。

と、続きます。

記事にあるメーカーのコールセンターほど激しくはないですが、消費者センターでもよくある電話ですね。
メーカーのコールセンターが直接自社の苦情を受けるのに対して消費者センターが少し異なるのは、消費者のメーカーへの不満を消費者センター・相談員にぶつけてくることです。
誰もが経験があることだと思います。
いきなり、マシンガンのように不満をぶちまけてくることに対して、「メーカーに申し出てください」「消費者やセンターに言われても」とまともに答えても意味がなさないことがあります。

こんな場合は、相談者の事業者への怒りを放出させるまで、受け入れてあげることが第一歩になります。
そうすることで、落ち着いて、現実のトラブルの対応についてお互いに話を進めることができます。
ただ、怒りを一方的に聞かされて、うなずいて、というのは、つらいですね。心が折れてきます。

本当は最初から冷静になってほしいのですが、すべてがそうとは限りません。
どちらかというと、難対応事例になります。
これを本当の難対応事例にしないためにも、相談員の最初の対応が重要となります。
もし、相手の感情を放出しきれずに、相談員が口を挟むと、消化しきれていない怒りが、相談員に向けられます。
そして、事業者へ向けられた怒りと同じ怒りが相談員に向けられてきます(バランス理論)。
怒りを放出しきると、さっきまでの怒りは何だったのかというぐらい、すっきり冷静になることもあります。
相談員のコミュニケーション能力次第です。

消費者側の問題なので根本的な対策はありませんが、消費者センター側の対応として「相談者の怒りのレベルを上げるような初期対応にならないように」との原則を心がけてください。現実には、こちら側もカッとなって対応してしまうこともあり、なかなか難しいんですけどね。

この記事の中ほどには

一緒に入った13人のうち残っているのは2人だけ。みんな「体調不良」などを理由に辞めていった。
「一回折れてしまうと、立ち直れない人が多いですね」。
最初の1ヶ月で3分の1が辞めるという。

そして、最後に

相手が納得するまで切らない。それがコールセンターのルールだ。トイレの壁には誰かが拳で開けた穴が二つ残っている。

と締めくくられています。

相談現場を知っていれば共感できる記事です。
特に最近は対応に苦慮する消費者が増えてきたので、気持ちはよく分かります。
最近は相談員のメンタルヘルスに関する研修会も開催されています。

今回の記事は「事業者コールセンターオペレーター」と「消費者」との関係ですが、私たちは「消費者センター相談員」と「消費者]との関係となります。そして、忘れてはならないのは、「事業者」と「消費者センター]という、対消費者的には同じ立場になるものの、トライアングルの新しい関係があります。そこでも、同じように苦慮することもたびたびですね。

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振り上げたこぶしを降ろす

難苦情事例として、お互いが感情的になっていてどうしようもない事例があげられます。
いわゆる、「お互いにこぶしをあげてしまい降ろすに降ろせなくなってしまう」状態です。
間に入ったセンターとしては、両者が冷静になっていないので、どうにも困ってしまいます。
また、片一方だけがこぶしをあげて降ろさない降ろせないこともあります。
このような事例に対して、どのように対応したらいいのでしょうか。

こぶしを上げる(感情的になっている)対象によって、大きく2つのパターンがあります。
①調査結果に納得がいかない、などの事実関係に対するもの。
②対応が悪い、言葉づかいが悪い、反省がない、ひとごとだ、などの感情に関するもの。

まず、その事例がどちらの事例であるかを判断する必要があります。
そのためには、「相談対応の流れ」で説明したように、相談者の主張を「事実」と「感情」に分けることが必要です。
相談内容を箇条書きにまとめて、「事実」と「感情」、(そして「要望」)に分ける作業をしましょう。
そして、「バランス理論」をしっかり理解して相談者・相談員・事業者の3者がどのようにしたら良好な関係が築けるのかを考えてください。
(参考)
相談対応の流れ・・・WEB連載【相談対応の流れと必要なスキル】
バランス理論・・・WEB連載【バランス理論を理解し、相談現場でのコミュニケーションに活用する】
https://soudanskill.com/web-magazine

①調査結果に納得がいかない、などの事実関係に対するもの
事実関係に関するものであれば、事業者と相談者が感情的になり冷静な話し合いができないときに、センターが間に入って事業者の調査結果を相談者に説明することになります。
当然ながら、相談員が納得できない調査結果に対して、相談者に説明できるわけがないので、まず、相談員・センターが調査結果が妥当なものであるかどうかを判断します。
契約関係のものであれば相談員・センターでも判断可能ですが、製品関係の調査結果になると技術職員や都道府県のセンター・国セン・NITEなどに調査結果が妥当かどうかを相談することになると思います。そのうえで、調査結果に不備や疑問などがあれば追加調査や説明を求めることになります。
相談者へは、最後に説明するか途中経過で説明するかは個別の判断がありますが、「センターとして事業者の調査が十分ではなかったので再調査を求めた」などと相談者に説明した方が、センターとしてきっちり対応していることを示すことができ、相談者の信頼につながりますので、センターとしてやったことはしっかり相談者に説明しておいた方がいいと思います(相談員と相談者の信頼関係を「○」にするバランス理論)。
最終的に結論付けられた事実関係が相談者にとって納得できるものであれば問題なく納まりますが、相談者にとって納得できないものであれば、相談者の事実関係に関する主張は受け入れられないものの、相談者の気持ちを受け入れてあげることで対応することになります(バランス理論)。
なお、相談員には事業者の調査結果を自分の理解として読み取る能力が求められます。それは、知識と論理的に考える能力です。

②対応が悪い、言葉づかいが悪い、反省がない、ひとごとだ、などの感情に関するもの。
調査結果には納得するが、対応のまずさに事業者への信頼関係をなくしてしまい、怒り心頭でこぶしをあげるというパターンですが、こちらのほうが比較的多いような気がします。事実関係にこぶしをあげた場合は事実関係を明確にしてセンターがその結果を担保するというプロセスさえ踏めば基本的にはやれることはないからです。それに比べて、感情にはきりがありません。それをどのようにさばいていくのかが相談員としての力量です。人の感情をコントロールするのは容易ではありません。また、相談員の対応次第では、相談員やセンターに感情をぶつけてこぶしをあげてくるという最悪のパターンもあります。笑い事ではなく、センターへの苦情に転嫁されることも少なくありません。それも相談員の力量次第です。
具体的な方法としては、すでに説明してきた「相談対応の流れ」と「バランス理論」を理解していれば分かると思います。
事実関係には納得しているので感情のバランスを保ってあげればいいのです。「相談者の気持ちを受け入れる」ことがポイントになります。
相談者と事業者が「×」「×」の関係になっているので、この関係を修復するために、相談者に相談員(センター)は事業者に対して「×」(事業者の対応はおかしい)であることを示し、相談員は相談者の気持ちに対して「○」(気持ちはよく分かる)であることを示してあげるのです。すると、間接的に、相談者が事業者に対して「×」という感情が相談員・センターによって認められたことになります(すなわち、相談者の事業者に対する「×」という感情は正しかった「○」であるということです)。そこで、相談者の理解・満足・共感を得ることができるのです。
もちろん、相談者が事業者に示す「×」について、指導的なことをするわけですが、ここでは書きにくい「コツ」や「ツボ」があります。分かる人なら分かると思います。これが、コミュニケーションスキルでいうと、「Win-Winの関係]といいます。機会があれば別途説明したいと思います。
こうして、当初からの決まった事実関係を曲げずに、お互いにあげた感情のこぶしを相談員が間に入ることによって降ろしてもらうことができます。もちろん、その前提として、「相談員と相談者」「相談員と事業者」の間で信頼関係が結ばれているほど楽に解決できます。
ただし、どんなことがあってみ他人の考えを認めない人もわずかにいます。そういう場合は斡旋しようとこだわらず、「あっせん不調」としましょう(カール・ロジャースの2:7:1の法則 2011年10月13日(木))。
日本人は調査結果がおかしくても、感情的な義理を果たせば納得する人が多いです(変な物を買わされても、消費者の苦情に対して事業者が対応のまずさを謝罪し、きちんと説明すれば、返品とならずに買ってもらえることが少なくないです)。それがいいことかどうかはなんともいえませんね。

まとめ
「感情を受け止める」というコミュニケーションスキルが相談員の力量により異なり、難苦情事例をうまくあっせんできるか、泥沼に陥ってしまうかという分かれ目です。
このような事例に対する実務的な研修はあまりないのではないでしょうか。
ないのにもかかわらず、その技能を求められても、どうしたらいいの?というのが相談員の思うところではないかと思います。
要するに自分の力でスキルを獲得しなさいということでしょうか。
新しい相談員資格の検討会で相談員に求められている技能に対して、どのような方法で担保していくのか見守っています。

このサイトではこのようなコミュニケーションスキルに焦点を当てて解説しています。
リアルな研修が可能でなれば、もっと具体的な事例演習もしたいところです。

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