仕事図鑑

NHKの「あしたをつかめ 平成仕事図鑑」に「消費生活相談」がテーマに取り上げられました。
ごらんになった方も多いのではないでしょうか。
見てない方は、録画されている方に借りてください。

国民生活センターに就職した3年目の女性相談員の仕事ぶりが紹介されています。
電話相談を担当して2ヶ月という新人です。
他の相談員の仕事ぶりや国民生活センターの仕事の進め方など、参考になったのではないでしょうか。

番組紹介のHPはこちらです
「あしたをつかめ 平成仕事図鑑」
http://www.nhk.or.jp/shigoto/
no.282  消費生活相談
http://www.nhk.or.jp/shigoto/zukan/282/top.html

いくつかコメントしたいと思います。

国民生活センターの品川です。直接相談って今年度からなくなってましたよね?被災地からの相談を3月下旬から受けているので、その対応ということでしょうか。番組を見て一般の消費者が国民生活センターに相談したいとなっても、直接相談を受けていないので身近な消費生活センターを紹介されるという皮肉になりますね。国センの相談員は今後どうなるのか気になります。次は、地方自治体の消費生活センターも取り上げてほしいですが同じテーマは2度とないでしょうね。

30秒ですが、インタビューもNHKのHPで見れます
「解決は一つではなくて、その人にあった、100人いれば、100人の答があるので、それに向かって助言して解決に結び付けていく」
そのとおりです。相談員も、固定観念を持たずに、柔軟に対応できることを目指してください。

仕事ぶりの中で、これはgoodと思ったことがあります。
「相談者に聞くことをあらかじめ紙に書いてまとめておく」ということです。「ベテランじゃないので頭の中にまとめれないから書く」ということを言ってましたが、紙に書くことはとても重要です。ベテランほど紙に書かなくなって、対応に穴があることが少なくありません。しっかり考えを紙に書いて整理していくことが重要です。

相談事例で、「震災で結婚をキャンセルしたところ、キャンセル料を50%の150万円請求された」というのを担当していました。
契約書を見ると、確かに50%のキャンセル料とあり、支払わなければならないということで、上司と相談し、「震災で身内がなくなった」という事情も考慮して、「実損」を計算して、交渉していくという方針になりました。
さて、この事例はみなさんだったらどう対応しますか?

おそらく、まず頭に浮かぶのは、消費者契約法の第9条の「消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効」の中の、「平均的損害」に目を向けるでしょう。つまり、キャンセル料50%の150万円が実損として、積み上げれるのかどうか、明細書をもらって交渉するということです。今回の国センの対応と同じでしょうね。

確かに正論ではそのような道筋になるでしょうが、私の見方は少し違い、その前にできることがあるのではと考えます。
事業者にとって、「キャンセル」はやっぱり受けたくないでしょうね。
今回の理由が、もし、「結婚を取りやめした」のではなく、「結婚はする予定だけれども、今このタイミングで結婚するのが困難になった」というのであれば、「キャンセル」ではなく、「延期」にしてもらうという道はないのかなと考えます。相談者は結婚する予定だし、結婚式場は延期になるけど結婚式をあげてもらえることになり、両者にとって、損失は生じないのではないでしょうか。期日が迫りすぎてたとか、金銭的に困難になったとかでなければ、規模を縮小してでも、半年から1年先延ばしにするという解決方法を提示できるのではないかと思います。相談の詳細は違うかもしれませんが、そういう視点から話を聞いて、それがOKならいい方向に進むのではないかと思ったりします。結婚式場にしても震災で結婚式のキャンセルが相次ぎ、経営に影響が出ているのですから。そして、キャンセル料の50%が高額という「文句」を言わずにすむのであればいいのではと思います。
その道がなくなれば、王道の平均的損害の交渉になると思います。

人間対人間です。お互いにベストな選択肢があれば、どちらも傷つかずにすむのではないのかと思います。
私は常に、法律にしばられるのではなく、お互いに話をして、両者が納得する答を出してあげることが大切ではないかと思っています。悪質商法であれば、法律を振りかざして、断固たる対応をすべきと思いますが、そうでないトラブルの場合は、法律を出すのは後でもいいのではと思ったりします。そういう解決方法が、法律相談や弁護士にかかるのではない消費者センターならではのあっせんではないかと思います。

日々勉強、日々努力して、経験値を高め、一人前を目指しましょう。
NHKのHPでは彼女にメッセージを送ることができますが、送信者の個人情報が必要なので残念ながら遅れませんが、応援しています。

相談者の前で電話

来所で相談を受けた場合に、相談者の目の前で相談員が事業者や関係機関と電話で連絡をすることがあると思います。
そのときに気をつけておかなければならないことについて書き留めておきます。

相談者の前で電話する場合は、事務的な連絡だけにしましょう。
交渉ごとをするのは避けたほうが無難です。
必要な場合は自分の席に戻って、電話してください。

なぜなら、その電話で、相談員と相談者の信頼関係が崩れて、消費者センターへの苦情に変わる可能性があるからです。

電話で交渉して、すべて上手くいけば、相談者もうれしいでしょうし、相談員も目の前で交渉が成功したということでうれしいでしょう。
しかし、いつもそう上手くいくとは限りません。
不利な条件を出されたり、けんか腰になったり、何らかの条件がついたりした場合に、相談員自身がうまく交渉をまとめきれないさまを相談者の前でみせてしまうことになるのです。

たとえば、言った言わないの話や法律解釈で平行線になったり、事業者から相談員が相談者から聞いてなかった不利な事実を指摘されたり、事業者との交渉で生じる問題点です。
事業者だけでなく、例えば、公的検査機関でテストを依頼できるかどうか聞いてみたところ、「できます」といわれたが、消費者センターの公文書の依頼書と送料負担が必要であったり、相当な時間がかかったり、後から細かく説明したら思ったような検査ができなかったり、相談者に期待を持たせておきながら、内部の事情で断らなければならないときに、検査できるといっただろう、と苦情になったりします。

単純な案件はかまいませんが、複雑な案件はいったん席に戻ってじっくり考えながら電話することをおすすめします。

留守電メッセージ

継続案件で相談者に電話したところ、留守電になっていた場合に、どう対応したらよいでしょうか。

まず、留守電になっているとは思ってなくて、あたふたしてしまう、というパターンもよくありますね。
そのまま切ってしまうこともありますが、着信履歴に残っているときなど苦情になることもありますので気をつけてください。

一番気をつけてほしいのが、事業者との交渉結果を連絡したかった場合に、留守電だったら、どんなメッセージを残すか。
簡単なことですが、確認しておきたいと思います。
メッセージの内容によっては、次にかかってくる電話で怒りをぶつけられるかもしれません。

伝言できる内容は限られています。
その短い文章の中に、伝えたいことを、きちんと伝えることができるでしょうか。
ほとんどできません。

ポイントは、相談者にとって、良い結果のときは、その内容を留守電に残してもOKです。
喜んで電話がかかってくるでしょう。電話がかかってきてもお互い良好な関係で話ができて、あっせん解決します。

一方、良くない結果のときは、その内容を留守電に決して残さないようにしてください。
すなわち、「事業者が相談者の申し出を拒否したり、消費者センターの話を聞いてくれなかったり、賠償額を減額してきたり」、相談者に電話で直接伝えたら、必ず怒って、相談員に怒りをぶつけて、交渉継続するような場合は、その内容を決して留守電に入れてはいけません。

センターと事業者の複雑なやり取りのあとに出てきた結果ですが、その経緯は相談員しか分かっていませんので、相談者に結果だけを伝えると経緯が伝わりません。思わぬ反論をされてしまいます。後から、「実はこういう経緯があって、そういう回答になりました」、と説明して何とか理解してもらっても、お互い気まずい空気は残ります。それなら最初から伝えなければ良かったのです。留守電の否定的な内容を聞いてしまうと、いろいろ考えてしまい、だんだん怒りが増してきます。限られた留守電のメッセージですので中途半端にしか伝わりません。

留守電に入れる内容は、
「○○消費者センターの相談員の○○です。先日ご相談いただいたことで、お伝えしたいことがありますので、お手数ですがお電話ください(または改めて電話します)」
これでOKです。
次の電話で直接、事業者との交渉の経緯や良い結果が出なかった報告と今後どうしていくかを話し合ってください。

ちょっとした心がけで、相談者との信頼関係を崩すことを避けることができると思います。

(平成23年6月6日 初稿)
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