ニュースの方程式

「環境技術」という専門誌の論文を紹介します。
環境技術学会
http://www.jriet.net/

「環境技術」2013年9月号

[特集記事] 間違った情報にどう対処すべきか―「メディアのメディア」をつくろう―
‥‥毎日新聞社 小島正美
http://www.jriet.net/paper/2013/0913/534.htm
要旨
放射線のリスクだけでなく,遺伝子組み換え作物,食品添加物,医薬品,農薬などの分野でおかしなメディア情報が飛び交っている.放射線量が年間1ミリシーベルトを超えると健康被害が生じるかのような情報もそのひとつだ.こういう根拠のない情報を打ち消すための「カウンター情報」が必要だ.なぜ,ニュースがゆがみ,なぜ,専門家が嘆くような状況になるかを考えながら,おかしな情報をチェックする「メディアのメディア」の創設が必要だと提案したい.
キーワード:副作用,ニュースの特異性,客観報道,カウンター情報,メディアのメディア

記者が送るニュースは「政治性」を帯びている。ニュースの素材選びから、見出しをつけて報じるまで、すべて記者の主観的な産物である。つまり、客観報道は存在しない。

【抜粋】2.客観報道は存在しない

ある出来事が起きたとき、それをニュースにするかどうかは記者が判断する。
つまり、ニュースは最初から最後まで主観的なものである。
記者の価値観がいろいろであれば、そのニュースは記者の価値観を反映した政治的なものになるのも当然である。
その主観的な内容のニュースが、科学的に見ておかしいかどうかは、見る人によっても異なるだけにやっかいだ。
だから、まずニュースを見たら、多数の科学者がどう見ているかを知ることが重要になる。つまり、ニュースの中身は多数の科学者が同意するような内容かどうかをみなに知らせることが重要だ。

4.ニュースの方程式

ニュースのインパクト=特異的なこと(珍しいこと・初めて・少数派・おもしろいこと)×物語(共感を得る生涯・利他的行動)×アクション(緊急会見・抗議行動・デモ)

どんなニュースが届くか

・科学的な話よりもおもしろい話
・安全な話よりも怖い話
・統計的な全体像よりも、例外的な話
・多数の安心よりも少数の不安
・多数派の科学者よりも少数派の異端
・冷静な政治家よりもパフォーマンス型政治家

ポイントを抜粋しましたが、だいたいわかってもらえると思います。
消費者センターの現場にいれば、食品の安全や安心、放射能問題、健康食品、機能水など、相談事例にもあるとおり、人々はメディアに動かされます。そして、思い込みが始まります。
「思い込み=バイアス」は以前にも記事にしたことがあります(バイアスを持たないようにする 2010年4月8日(木))。
消費者センターは、消費者に「スタンダード」を示すことが重要です。したがって、相談員はスタンダードを理解するために客観的な事実を知らなければなりません。自分自身で調べていかなければならない場合と、国などがあらかじめ調べて公表している場合とがあります。しかし、国のQ&Aは消費者に理解されにくいという現実もあります。国は信用できない。都合よく解釈している。何か隠している。など、マイナスのバイアスがかかっていることがあります。
今の世の中は、正しい事実よりも、大多数の意見のほうが真実になってしまうというのが怖いですね。いわゆる、世論です。
今回の論文の中で、「子宮頸がんワクチン」と「風疹予防ワクチン」の問題が対比されています。ワクチンの有効性という客観的事実が議論されることなく、ニュースの方程式にのっとり、片や「いいもの」に片や「悪者」に仕立て上げられました。
何が明暗を分けたのかというと、ニュースの方程式にのっとった情報を客観的に評価できているかどうかということです。
筆者は「メディア」の「メディア」が必要だと主張しています。つまり、最初にメディアの出た情報を専門家がそれぞれの見方を投稿する「メディア」があれば、普通の人ではわからないことでも、読み手にとっても記者にとっても、情報を読み解く力は格段にアップすると呼びかけています。

消費者センターの現場で日々、情報を読み解く力が試されている相談員にとって、この論文をどう解釈するかは、各自にお任せしますが、ネットの掲示板やツイッターでは、明らかに偏った発言と見られるものがあります。そして、それに噛み付いている人も。
そのやり取りは冷静になって客観的にみれば本質が見えてきます。決して、迷わないようにしてください。
興味がある人はなかなか手に入らないと思いますが読んでみてください。
まさしく、「情報リテラシー」=「情報を読み解く力」ですね。

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