マズローの欲求5段階説 その2

さて、前回は「マズローの欲求5段階説」について一般論をお話したところです。
一般論であるうちは自分とは関係のないことと感じてしまいますね。

では、ここで質問です。
相談員の皆さんは、相談員という仕事をしているなかでの、相談員としての欲求は、5つの段階のどの段階にいますか?

第 1 段階: 生理的欲求 (Physiological needs)
第 2 段階: 安全の欲求 (Safety needs)
第 3 段階: 社会的欲求 (Love Belonging needs)
第 4 段階: 自我の欲求 (Esteem needs)
第 5 段階: 自己実現の欲求 (Self-actualization needs)

私なりに考えてみました。
①②家計が苦しくて相談員という仕事でパート収入を得て何とか暮らしている。生活が厳しく、相談員という仕事をこなすだけで精一杯である。
→収入の安定や生活の安定、安全の確保といった「基本的欲求」(第 1 段階: 生理的欲求+第 2 段階: 安全の欲求)の段階です。
③消費者センターに勤めて、みんなと仕事を一緒にしたい、社会人として働きたい、私という人間を受け入れて欲しい
→良い会社、良い仲間と仕事をしたい、職場で受け入れられたいという帰属の欲求である「第 3 段階: 社会的欲求 」の段階です。
④相談業務を通じて、私は社会に役立っていると認めて欲しい、相談員としての能力を認めて欲しい
→早く一人前になり周りに認めて欲しいという「第 4 段階: 自我の欲求」の段階です。
⑤困っている消費者のために助けてあげることのできる相談員になりたい、悪質業者をやっつけたい正義を貫くことができる相談員になりたい、相談員の見本となりたい
→人間的成長を目指す「第 5 段階: 自己実現の欲求」の段階です。

相談員の皆さんはそれぞれの個人的な立場や家庭的事情における様々な立場があると思います。
一律にこの段階にいるべきというものでもありません。

第3段階までの場合はスキルアップどころではなく毎日を過ごすのが精一杯というところでしょう。
この段階の相談員にとっては、このスキルアップ講座の対象とはなりにくいと思います。

そして重要なのが、第4段階と第5段階です。
第4段階があってこそ実現可能な第5段階です。第4段階と第5段階は常にリンクしながらアプローチしていくことになります。
相談員であれば誰もが「困っ ている消費者のために助けてあげることのできる相談員になりたい、悪質業者をやっつけたい正義を貫くことができる相談員になりたい、相談員の見本となりた い」と思うでしょう。間違ってはいません。そう目指して欲しいです。
しかし、第4段階である、「自分を認めて欲しい」という欲求の成果として、「スキル・実力・能力が認められている」ことが、第5段階に上がる前提になっていると思います。
したがって、相談員としての実力が十分でない段階で、いきなり正しく「第5段階」に対応することは困難であり、一歩間違えれば、勝手な困った相談員となってしまうのです。それは避けなければなりません。しかし、いったん私は第5段階にいると思ってしまえば、相談員としての能力に疑問をぶつけられたときに反発してしまい、スキルアップの機会を逃してしまいます。
常に第4段階の実力をつけて第5段階へ、新しい事象に対して、もう一度第4段階に戻ってから第5段階へと、自我の欲求と自己実現をどんどん拡大させながら(第5段階を目指すために相談員としての能力を向上させながら)勉強して欲しいなあと思います。

ちょっとくどくて分かりにくいかもしれませんね。。
もっと単純にいうと、「実力・能力・スキルが十分でないのに、周りのアドバイスを聞かず、何も考えず、いきあたりばったりで、事業者に突っ込んでいき、痛い目にあうような相談員にはなってほしくない」、ということです。
あなたの周りにそういう相談員はいませんか?
反面教師として、そこから学ぶこともあります。
自分の実力に合わせて、事前に、しっかりプランを立ててから論理的に攻めて行きましょう。
己の実力を知ることが大切です。

本当にスキルアップを目指したい相談員の皆さんのためのヒントとして、このスキルアップ講座はありたいと思います。
(平成22年2月14日 初稿)
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マズローの欲求5段階説 その1

「マズローの欲求5段階説」は、自己実現理論とよばれ、アメリカ合衆国の心理学者・アブラハム・マズローが、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化したものです。
「人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていて、低階層の欲求が充たされると、より高次の階層の欲求を欲するというもの」で聞いたことがある方もおられると思います。
モチベーション(動機付け・やる気)理論の一つでもあります。

私は10年ほど前にこの話を聞いたことがあるのですが、単にこの理論の説明だけだったので、他人事でした。
しかし、これを自分の仕事に対するモチベーション・意欲・やる気・将来どうしたいのかなどを意識したところ、この理論の考え方がより身近になりました。
そして、これを読まれている相談員の皆さんがピラミッドのどの段階にいるかということを考えることで、スキルアップへのモチベーションにつながるのではないかと考えています。

「マズローの欲求5段階説」については様々なサイトで解説されていますが、ピラミッド型の図が有名ですね。

第 1 段階: 生理的欲求 (Physiological needs)
・生命維持のための食事・睡眠・排泄等の本能的・根源的な欲求
・ この欲求が満たされない場合、人間は生きていくことができなくなる。
第 2 段階: 安全の欲求 (Safety needs)
・安全性・経済的安定性・良い健康状態・良い暮らしの水準など、予測可能で、秩序だった状態を得ようとする欲求
・病気や不慮の事故などに対するセーフティ・ネットなども、これを満たす要因に含まれる。
・ この欲求を満たすために一生涯を費やす人が、世界にはたくさんいる。
第 3 段階: 社会的欲求 (Love Belonging needs)/所属と愛の欲求(social need/love and belonging)
・情緒的な人間関係・他者に受け入れられている、どこかに所属しているという感覚
・この欲求が満たされない時、人は孤独感や社会的不安を感じやすくなり、鬱状態になりやすくなる。
・この欲求が十分に満たされている場合、生理的欲求や安全の欲求を克服することがある。
第 4 段階: 自我の欲求 (Esteem needs)/承認(尊重)の欲求(esteem)
・自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求
・尊重のレベルには二つある。
・低いレベルの尊重欲求は、他者からの尊敬、地位への渇望、名声、利権、注目などを得ることによって満たすことができる。マズローは、この低い尊重のレベルにとどまり続けることは危険だとしている。
・高いレベルの尊重欲求は、自己尊重感、技術や能力の習得、自己信頼感、自立性などを得ることで満たされ、他人からの評価よりも、自分自身の評価が重視される。
第 5 段階: 自己実現の欲求 (Self-actualization needs)
・自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化したいと思う欲求。すべての行動の動機が、この欲求に帰結されるようになる。

また、それぞれの欲求をまとめた考え方もあります。
・基本的欲求:第 1 段階: 生理的欲求 (Physiological needs)+第 2 段階: 安全の欲求 (Safety needs)
・帰属欲求:第 3 段階: 社会的欲求 (Love Belonging needs)
・自我欲求:第 4 段階: 自我の欲求 (Esteem needs)+第 5 段階: 自己実現の欲求 (Self-actualization needs)

・物質的欲求→基本的欲求
・精神的欲求→帰属欲求+自我欲求

さらに、マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの段階、「自己超越」(self-transcendence) の段階があると発表しております

< ウィキペディア等を参考にしました>
※キャリアウィングの(http://www.career-wing.jp/document/document06.pdf)の表が分かりやすくまとめられています。具体的な表現になっているので、こちらをもとに解説していきたいと思います。

次回は、この「マズローの欲求5段階説」を相談員という仕事とスキルアップに結び付けて考えたいと思います。

第一印象 ファーストコンタクト その3

来所相談でのファーストコンタクについて書きたいと思います。
ここでは、あくまでも、消費者と相談員が最初のあいさつを交わすまでに付いて述べたいと思います。
電話相談と違い相手の姿が見えます。当然ながら相手から相談員の姿が見えるというところで、声だけではなく態度にも気をつけなければならないので複雑になります。

目標は、電話対応と同じ、消費者に安心してもらい、お互いの信頼関係を築き、心を開いてもらうことです。
相手が見えるだけあって、うまくいけばスムーズです。
しかし、ひとたび関係が崩れるとその場から逃げ出せないために対応に困難を伴います。
ここでのポイントも電話と同じマイナスを出さないことです。

しかし、前提として消費者は弱い立場なので、消費者センターの対応が少々まずくてもトラブルになることは少ないと考えられます。
(最近はそうでもないのですが、これについてはべつの機会に)

消費者はトラブルを抱えてすがる思いで消費者センターに相談に訪れます。
普通は電話相談から始まるのですが、来所から始まるということは、よっぽどの内容ではないかと考えておくことも重要です。
すでに怒り心頭で、いきなりまくし立てることもあります。

ここでは初期対応、すなわち受付は誰がするのか、について考えます。
こればかりは消費者センターによって体制が異なります。
大きな消費者センターでは相談員が応対するかもしれませんが、小さな消費者センターでは受付の事務職員、行政職員、アルバイトなどが対応すると思います。
相談員が受付対応するのであれば「ツボ」は分かると思いますが(分からない相談員もいますが)、それ以外の人が受け付け対応する場合は、どれだけ受付がマニュアル化されているかに限ります。
マニュアル化といえば堅苦しいですが、いかにトラブルなく相談員に引き合わせるかが、受付の絶対使命です。

来所相談は顔が見えるだけに電話と違ったアドバンテージがあります。
それは、相手の相談内容のトーンが推測できることです。
大きな荷物を持っていたら商品かな、封筒を持ってたら請求トラブルかな、息子に連れられたお年寄りか、親につれられた子どもか、すでに興奮してそうなのか、いかついのか、少しおかしそうなのか、などなど
先入観は良くないとは言いますが、外見からかもし出されている雰囲気を感じ取り、対応のミスをなくす(マイナスをなくす)ために活用したらよいと思います。

受付では、笑顔で親切に対応するのがいいのでしょうか?
賛否は分かれると思いますが、私は電話相談と同じように淡々と対応したらよいと思います。
まあ、相手にもよりますが、いきなり笑顔でニコニコと話すと、怒り心頭の消費者の場合は逆燐に触れることもありますので、淡々とした方がいいのではと思います。

さて、受付では、相談受け入れ可能条件を確認する必要があります。
このタイミングは消費センターによって違います。
受け入れできない場合の対応について、しっかり対応できるようにしていてください。
受け入れ不可能とは、住所地が違う、近隣トラブルである、事業者間のトラブルである、など、相談可能範囲は消費者センターによって異なります。
受付できない場合は、電話と違い、せっかく来所したのに、たらいまわしにする、という新たなトラブルが発生します。
行政サイドとしてはあたりまえのことなのですが、消費者としては理不尽で受け入れられません。
そして、できないことを説明するときに、その話し方を含めた対応が新たな苦情を生んでしまうことがあります。
受け入れできる場合と受け入れできない場合、そして受け入れできない場合はスムーズに関係部署を紹介する、という対応をマニュアル化しておいてください。

さて、受け入れできるかどうかは、どうやって確認するのでしょうか
相談内容を聞かなければわかりませんよね
実際に相談対応する相談員であれば問題は少ないのですが、受付など違う人が確認する場合、どこまで相談内容を聞けばいいのか、しっかり考えておく必要があります。
消費者によっては、いきなり相談内容をまくしたてるときがあります。
そんな場合、実際に対応する相談員に同じことを説明することになり、さっき言ったばかりだろうという苦情にもなります。

以上のように、こまかく考え始めるときりがないですよね。
ただし、これは、最悪の場合を想定しています。
最初に言ったように、前提として消費者は弱い立場なので、消費者センターの対応が少々まずくてもトラブルになることは少ないと考えられます。

しかし、こういった細やかなことが自然にできるような相談員であれば、おのずと相談対応・コミュニケーション能力にすぐれているともいえると思います。

そして、相談者と相対した相談員は、「相談員の○○です」というあいさつから本題に入っていきます。
この時点で、マイナスがない、むしろプラスの状態であれば、以後の話もスムーズに進むのではないかと思います。

※来所相談におけるノンバーバルコミュニケーションの「顔の表情・見た目・しぐさ・視線などの視覚情報」については、今回のファーストコンタクトのカテゴリーではなく、別の相談対応のカテゴリーで書きたいと思います。

(平成22年2月3日 初稿)
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