相談者の前で電話

来所で相談を受けた場合に、相談者の目の前で相談員が事業者や関係機関と電話で連絡をすることがあると思います。
そのときに気をつけておかなければならないことについて書き留めておきます。

相談者の前で電話する場合は、事務的な連絡だけにしましょう。
交渉ごとをするのは避けたほうが無難です。
必要な場合は自分の席に戻って、電話してください。

なぜなら、その電話で、相談員と相談者の信頼関係が崩れて、消費者センターへの苦情に変わる可能性があるからです。

電話で交渉して、すべて上手くいけば、相談者もうれしいでしょうし、相談員も目の前で交渉が成功したということでうれしいでしょう。
しかし、いつもそう上手くいくとは限りません。
不利な条件を出されたり、けんか腰になったり、何らかの条件がついたりした場合に、相談員自身がうまく交渉をまとめきれないさまを相談者の前でみせてしまうことになるのです。

たとえば、言った言わないの話や法律解釈で平行線になったり、事業者から相談員が相談者から聞いてなかった不利な事実を指摘されたり、事業者との交渉で生じる問題点です。
事業者だけでなく、例えば、公的検査機関でテストを依頼できるかどうか聞いてみたところ、「できます」といわれたが、消費者センターの公文書の依頼書と送料負担が必要であったり、相当な時間がかかったり、後から細かく説明したら思ったような検査ができなかったり、相談者に期待を持たせておきながら、内部の事情で断らなければならないときに、検査できるといっただろう、と苦情になったりします。

単純な案件はかまいませんが、複雑な案件はいったん席に戻ってじっくり考えながら電話することをおすすめします。

留守電メッセージ

継続案件で相談者に電話したところ、留守電になっていた場合に、どう対応したらよいでしょうか。

まず、留守電になっているとは思ってなくて、あたふたしてしまう、というパターンもよくありますね。
そのまま切ってしまうこともありますが、着信履歴に残っているときなど苦情になることもありますので気をつけてください。

一番気をつけてほしいのが、事業者との交渉結果を連絡したかった場合に、留守電だったら、どんなメッセージを残すか。
簡単なことですが、確認しておきたいと思います。
メッセージの内容によっては、次にかかってくる電話で怒りをぶつけられるかもしれません。

伝言できる内容は限られています。
その短い文章の中に、伝えたいことを、きちんと伝えることができるでしょうか。
ほとんどできません。

ポイントは、相談者にとって、良い結果のときは、その内容を留守電に残してもOKです。
喜んで電話がかかってくるでしょう。電話がかかってきてもお互い良好な関係で話ができて、あっせん解決します。

一方、良くない結果のときは、その内容を留守電に決して残さないようにしてください。
すなわち、「事業者が相談者の申し出を拒否したり、消費者センターの話を聞いてくれなかったり、賠償額を減額してきたり」、相談者に電話で直接伝えたら、必ず怒って、相談員に怒りをぶつけて、交渉継続するような場合は、その内容を決して留守電に入れてはいけません。

センターと事業者の複雑なやり取りのあとに出てきた結果ですが、その経緯は相談員しか分かっていませんので、相談者に結果だけを伝えると経緯が伝わりません。思わぬ反論をされてしまいます。後から、「実はこういう経緯があって、そういう回答になりました」、と説明して何とか理解してもらっても、お互い気まずい空気は残ります。それなら最初から伝えなければ良かったのです。留守電の否定的な内容を聞いてしまうと、いろいろ考えてしまい、だんだん怒りが増してきます。限られた留守電のメッセージですので中途半端にしか伝わりません。

留守電に入れる内容は、
「○○消費者センターの相談員の○○です。先日ご相談いただいたことで、お伝えしたいことがありますので、お手数ですがお電話ください(または改めて電話します)」
これでOKです。
次の電話で直接、事業者との交渉の経緯や良い結果が出なかった報告と今後どうしていくかを話し合ってください。

ちょっとした心がけで、相談者との信頼関係を崩すことを避けることができると思います。

(平成23年6月6日 初稿)
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日本人の気質

今回の大震災の日本人の整然とした被災者の対応について海外から高く評価を受けています。
外国人にはまねできないといわれています。
文化の違いが根底にあるということもいわれています。
そうだからこそ、日本は外国人をなかなか受け入れることができないのかもしれませんね。
その一つのキーワードが「我慢」です。
非常事態にはみんな我慢して協力し合うという精神です。

この「我慢」というキーワードについて、消費者センター的に考えたいと思います。

消費者センターに相談に来た消費者が興奮して大きな声を出し被害を矢継ぎ早に訴えることがあります。
まるで、消費者センターに苦情をいっているようにも感じるときがあります。
また、メーカーへの苦情の申し出も、怒り心頭で電話をかけています。
街中でも、いきなり大声を叫んでいる場面に出くわすこともあります。

これらは、日本人の「我慢強さ」からきているのではないかと思っています。

日本人は何か嫌なことがあっても我慢します。
我慢して我慢して、我慢の限界を超えてしまったら、いきなり怒りの頂点に達します。
しかし、言われた側にとっては、いきなり怒りモードでこられても、何でこんなに起こっているのか、クレーマーだ、と引いてしまいます。

日本人のリスクコミュニケーションと同じですね。
(参考:リスクコミュニケーション https://soudanskill.com/20110405/193.html)

つまり、「怒る」か「怒らない」かの2者択一なんです。
「少しだけ怒る」「ほどほどに怒る」「結構怒る」という中間点がないのです。
「100%怒る」か「0%全く怒らない」かとなり、我慢している間は「0%全く怒らない」にはいってしまうのです。

電車の中でもよくありますよ。
ヘッドホンから音が漏れているときに、「音が漏れているので、少しボリュームを下げてください」といえば、相手も「すいません」で終わると思うのですが、残念ながら、日本人は注意せずに我慢します。
我慢して、我慢して、我慢の限界を超えてしまって、発する第一声が、「うるさい!迷惑だ!」。
言われたほうも、いきなりで戸惑ったり、逆切れしたり、周りの人も引いてしまったり、というシーンがうまれます。

消費者センターにきた相談者も、我慢に我慢を重ねて、限界を超えて、苦情を申し出ています。
100%の状態で、訴えます。特別なこととして考えるのではなく、普通のことだと考えてください。
相談者の心理状態をよく理解してあげて対応します。
まず、怒りを吐き出させてあげる。そして、その中から、相談者の相談したい内容を理解してあげる。それを受け止めてあげる。
そこからスタートします。
相談内容は、実は、「なんでもないこと」が多かったりします。
お互いが、ほどほどの状態であれば十分トラブルにはならない事例が多いです。
したがって、お互いの感情を相談員がすりあわせれば簡単に解決する場合もあります。
なかには話を聴いてもらったというだけで、気持ちがスッキリして、解決する場合も少なくありません。
バランス理論を思い出してください。

逆に、怒りを吐き出しているときに、それを止めたり、言い返したりすると、相談員への怒りに変わってくることもあります。
気持ちのすれ違いから100%状態になっているだけなんです。
相談員も最初は嫌でしょうが、話を聴いているうちに落ち着いてきます。
日本人のこうした感情を理解しておくことを心がけてください。

(平成23年5月30日 初稿)
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