読売新聞「三越伊勢丹 衣料品の製造に進出」のニュース(2015/1/8)

読売新聞に、三越伊勢丹が衣料品や靴などの製造小売事業に進出するという記事がありました。後日、新聞記事を否定していますが、どうなんでしょう。百貨店業界自体の手詰まり感を表しているような気がします。

その中に「SPA」という言葉がありました。

「SPA」とは「製造小売業」という意味で「speciality store retailer of private label apparel」の略語です。自社ブランドの衣料品を、通常はアパレル業者に企画を持ち込んで製造してもらうのですが、自社で企画から製造、小売まで一貫して行うことで、スピードを高めて、コストを削減します。
GAPやH&Mが代表であり、日本ではユニクロが有名です。

この言葉は繊維・アパレル業界では重要なキーワードです。
私は繊維製品品質管理士(TES)という資格を持っているのですが、論文試験の過去問で出題されたことがあります。当事、話題になったトピックスが出題されるので知った言葉です。どんな問題だったかというと

平成22年度 論文試験(60分)

次の論題に対して、600字から800字で答えなさい。
最近、新しい流行をすばやく取り入れ、手ごろな価格で実用品質を備え、短サイクルで生産・販売されている衣料品が、日本の消費者から支持されている。
これらの製品の多くは、SPA(製造小売業)業態のもとでグローバル展開している企業で扱われている。
このような衣料品や企業の動きに関して、次の点から論じなさい。
(1)消費者から支持されている社会背景
(2)これらの企業において、品質管理上で留意すべき点
(3)このような衣料品や企業の動きに対するあなたの考え

論点としては、不況の中で衣料品に出費しづらい状況にある中、手ごろな価格で流行をすばやく取り入れた「ファストファッション」が支持されている。SPAは海外生産が前提となるので、品質管理が重要である、というようなところです。
私は翌年に試験を受けましたが、そのときの論文問題は、「安全な繊維製品を供給する社会的責任について」でした。工場での針の混入や、クリーニングでの石油系溶剤の残留について書きました。

百貨店が商品を製造するのは異例

ちょうど中小企業診断士講座の運営管理を勉強しているところで、先生も三越の話をしていました。

商品仕入れ・販売・・・商品調達・取引条件・・・所有権による分類

「委託仕入」・・・商品の所有権は小売業者に移転しない、返品は可能、会計処理は販売手数料
⇒百貨店(小売業者)は委託手数料が収益となるので、業者にラインやアイテムや増やすように求めても、仕入れていないので百貨店のリスクはないが、なかなか思うようにいかないことがある。

つまり、百貨店は商品を仕入れず、販売手数料を収益としているビジネスモデルなのに、商品を製造するということは、販売からメーカーにもなるわけで、大きな戦略転換になるということです。
高い利益は狙えるけど在庫管理など、リスクが高くなります。新聞報道を否定したということですが、何らかの新しい業態を模索しているのかもしれません。
ただ、2010年には高島屋がカシミアセーターを4分の1の価格で販売することを目指してSPAに参入しており、特に三越が参入することに違和感はないし、遅いかもしれないですね。いまさら生産拠点を海外に置くのもリスクが高いです。また、大丸ブランドとして「トロージャン」というブランドがあるので、関連会社か何かで補うのかもしれません。
どちらにしろ、百貨店はビジネスモデルの転換点にあるのかもしれません。

SPAでは、東南アジアが製造拠点の中心ですが、現地の人件費が高騰していることや円安から、家電業界同様に、国内回帰になるかもしれませんね。

三越伊勢丹、衣料自ら製造へ…年内にも販売(読売新聞)
三越伊勢丹HD/読売新聞のSPA推進報道を否定(流通ニュース)

三越伊勢丹、衣料自ら製造へ…年内にも販売
2015年01月08日 07時18分

百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングスが、衣料品や靴、雑貨などについて、自らの意向で商品を企画・製造し、販売まで手掛ける製造小売り事業(SPA※)に本格参入することが明らかになった。

国内の市場が縮小する中、メーカーに頼る品ぞろえからの転換を図る。三越伊勢丹の参入で百貨店の事業モデルが大きく変わる可能性がある。

三越伊勢丹幹部が読売新聞の取材に明らかにした。

売り場で得た顧客の詳しい購買情報を新商品の企画に反映させ、より顧客に求められる商品を作り、高級ブランド品との両輪とする。2019年3月期には、百貨店事業の売上高のうち、SPAによる商品の割合を20~25%に引き上げたい考えだ。現在の事業規模にあてはめると2000億~3000億円となる。

素材の調達から製造、販売までを一貫して手がける体制を整え、年内にも販売を始める見通しだ。実際の製造は国内の複数の工場に委託し、三越伊勢丹の意向に基づく高品質の製品を作る。SPAを担当する専門子会社を16年にも設立することも検討している。

三越伊勢丹は19年3月までに、駅ビルやショッピングセンターなどに中小型店約100店を新規出店する計画で、そこではSPAによる商品を主力としたい考えだ。販売価格は衣料品が1万~2万円、靴は2万円程度を想定する。
2015年01月08日 07時18分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

YOMIURI ONLINEから引用
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150108-OYT1T50006.html

 

三越伊勢丹HD/読売新聞のSPA推進報道を否定

経営戦略/2015年01月08日

三越伊勢丹ホールディングスは1月8日、読売新聞が同日付けで報じた「三越伊勢丹 衣料品製造 年内にも販売 高級ブランドと両輪に」についてコメントを発表した。

グループでは、商品の独自性・収益性の向上に向けた仕入構造改革を従来から継続的に進めており、2014年11月7日に公表した中期経営計画においてもこの仕入構造改革について、「2018年度の取り組みシェア20%以上」とし、SPA型の商品開発もその手法のひとつとしているが、報道された「SPAによる商品の割合を20~25%に引き上げたい考え」は公表している事実と異なる。

「SPAを担当する専門子会社を2016年にも設立することを検討している」点も事実ではないと発表した。

流通ニュースより引用
http://ryutsuu.biz/strategy/h010817.html