デング熱

何だか一気にメジャーな言葉になりましたね。ニュースとは恐ろしいです。でも啓発の一つの手段には間違いないと思います。

デング熱という言葉は初耳の方が多いでしょうが、私は懐かしい気持ちです。
実は私は平成10年ごろに行政の感染症を本庁で担当していました。
O157(腸管出血性感染症)や海外旅行帰りの赤痢患者などの報告が入ってきます。
そのときに、海外旅行帰りのデング熱の患者の報告を受けたことがあります。
当事、デング熱って何だろうと勉強したことがありますが、熱帯地方の一般的なウイルス性の感染症という感じでした。

目次

  • デング熱の治療法は対症療法
  • デング熱もエボラ出血熱もついにきたか
  • 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
  • 危機管理という考え方
  • 感染源は代々木公園?
  • ちょうど代々木公園に宿泊していました...
  • 消費者センターでの対応

デング熱の治療法は対症療法

デング熱に特化した治療法はないので、いわゆる対症療法(一般的な薬や安静になって自己免疫で回復すること)で治していくというものです。
インフルエンザは治療薬がありますが、以前は対症療法だけでした。特に子どもは治療薬を飲みますが、大人は飲まずにしばらく寝込んで回復を待つというパターンが多いと思いますが、デング熱も同じような感じです。
これらの病気は基本的には安静にしておけば直っていくものですが、まれに重症化することがあります。それが怖いので注意しなければなりません。
インフルエンザでは「脳炎・脳症」です。デング熱でいえば「出血」で、血小板が減少するので血が止まりにくくなるようです。
重症化だけは気をつける必要があります。

デング熱もエボラ出血熱もついにきたか

デング熱もそうですが、エボラ出血熱も世界単位で大騒ぎになっています。
マスコミは大騒ぎしていますが、私はついに来るときが来たなあという感想です。
感染症を専門にしている人なら特に驚くことはないでしょう。

私が感染症を担当していた平成10年ごろは、厚生労働所の白書のトップで「新興・再興感染症」が特集されていました。
新興感染症とは、まったく新しい感染症が出現することで、未知のアフリカの奥地が開発されていく中で発見される可能性が指摘されていました。
再興感染症は昔流行していた感染症が再流行することです。
日本には関係のない感染症が飛行機などとともに国内に入ってきて広がる時代の危険性が指摘され、まさしく、SARSや新型インフルエンザなどが出現してきたわけです。
さらに、地球温暖化の中で、蚊が媒介するマラリアなどが北上していく可能性も指摘されており、熱帯性の感染症が日本に入ってくるのは時間の問題となっていました。
それが、まさに今、起こっているわけで、私や感染症の専門家は、十分想定の範囲内ではないかと思います。

そのころは感染症とは言わず、伝染病でした。100年前の法律であり、全面的に改正され、感染症予防法が誕生しました。伝染病という言葉も感染症に改められました。
ちょうど、この改正時期に担当者だったので、かなり忙しく大変でした。
感染症予防法の正式名は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年十月二日法律第百十四号)」といいます。
感染症の患者が差別されてきた歴史的経緯に配慮し、このような長い法律名になっています。
この法律が作られる経緯が前文として法律に書かれています。前文が書かれている法律はそうそうありません。それを読めば雰囲気が分かるのではないでしょうか。
また、この法律で感染症ごとの危険度が類型化されています。久しぶりに見ると、制定当事と比べて種類も数も増えていました。

エボラ出血熱は1類感染症で、デング熱は4類感染症です。一覧表を見れば、どの程度の危険性かが想像できると思います。

  • 一類感染症・・・エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
  • 二類感染症・・・急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群、鳥インフルエンザ(H五N一)
  • 三類感染症・・・コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス
  • 四類感染症・・・、E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザ(H五N一)を除く。)、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、
    動物又はその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの デング熱はここに分類されています
  • 五類感染症、インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)、ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く。)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、
    同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして厚生労働省令で定めるもの

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

前文
人類は、これまで、疾病、とりわけ感染症により、多大の苦難を経験してきた。ペスト、痘そう、コレラ等の感染症の流行は、時には文明を存亡の危機に追いやり、感染症を根絶することは、正に人類の悲願と言えるものである。
医学医療の進歩や衛生水準の著しい向上により、多くの感染症が克服されてきたが、新たな感染症の出現や既知の感染症の再興により、また、国際交流の進展等に伴い、感染症は、新たな形で、今なお人類に脅威を与えている。
一方、我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。
このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている。
ここに、このような視点に立って、これまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図るため、この法律を制定する。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10HO114.html

危機管理という考え方

そのころに、感染症危機管理という考え方が始まりました。もし、日本にこれらの感染症が入ってきたり流行したりすれば、どう対応したらいいのか(=クライシスコミュニケーション)。そして、未然に防ぐためにはどのように準備しておけばいいのか(=リスクコミュニケーション)、という訓練が始まりました。
当時は、国立感染症研究所が海外での発生地でアメリカのチームと現地調査を実施したりしていました。
そのノウハウを日本国内でも広げるように各地で研修会が実施されました。
私も、そのときに研修を受けて、その研修のケーススタディが今の私の研修スタイルの柱となっています。
その研修を自分の自治体でもやろうということになり、そのときのノウハウと研究所の先生方にもきてもらい、研修を実施する担当者となりました。
最初に管理職を集めて国立感染症研究所のプロフェッショナルに研修をしてもらいました。
その後に、参加した管理職をグループ分けして、それぞれケーススタディをつくり、局の事務職を含めた1000人に対して研修を実施するという前代未聞の研修を実施しました。4時間程度の研修を20人づつ毎週実施し、1年間かかりました。ちなみに、その途中で異動してしまいましたが。

その後、日本ではSARSや新型インフルエンザを経験しており、感染症対策としては、かなり進んでいるのではないでしょうか。
今回のデング熱の国内感染もしっかり動いていると思います。

感染源は代々木公園?

さて、感染源として、代々木公園が報道されていました。

NHK NEWSWEBより
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140828/k10014155971000.html

代々木公園で蚊に刺されたか 都が駆除進める
8月28日 17時52分

代々木公園で蚊に刺されたか 都が駆除進める
熱帯や亜熱帯の地域で流行している「デング熱」に、海外への渡航歴のない埼玉県の20代の女性と東京都の20代の男性が、新たに感染していたことが分かりました。
2人は、27日に「デング熱」への感染が確認された埼玉県の10代の女性と同じ学校の学生で、いずれも東京・渋谷区の都立代々木公園で蚊に刺されて感染した疑いがあることから、東京都は念のため、公園内で蚊の駆除を進めています。

新たに感染が確認されたのは、埼玉県の20代の女性と東京都の20代の男性で、このうち女性は症状が落ち着いているということですが、男性は発熱の症状があり、都内の病院に入院中だということです。
「デング熱」は蚊が媒介する感染症で、ヒトからヒトには感染しません。
「デング熱」については、27日に国内でおよそ70年ぶりに、埼玉県の10代の女性が感染していたことが分かりましたが、埼玉県や東京都によりますと、2人はこの女性と同じ都内の学校に通う学生で、全員海外への渡航歴はないということです。
3人は今月の初旬から20日ごろにかけて、東京・渋谷区の都立代々木公園でダンスの練習などをしていた際、蚊に刺されて感染した疑いがあるということです。
当時、同じ学校の学生が30人ほど一緒に活動していましたが、これまでにほかに発熱などの症状を訴えている人は確認されていないということで、学校と保健所で連絡を取り合い、健康状態の確認を続けることにしています。
また東京都によりますと、公園内で緊急に蚊を採取して調査したところ、デングウイルスは検出されなかったということですが、念のため、3人が蚊に刺されたとみられる場所の周囲を29日朝まで立ち入り禁止にして、薬剤を散布して蚊の駆除を進めています。

「駆除や発生しない対策が重要」
国内でデング熱に感染した人が新たに2人確認されたことについて、デング熱に詳しい長崎大学熱帯医学研究所の森田公一所長は、「感染が確認された3人は一緒に行動しているということで、同時期に感染したことが疑われる。次々と人を刺す性質を持つ、熱帯地域でウイルスを媒介している『ネッタイシマカ』が日本に入り込んでいる心配があるので、研究機関や行政が蚊を調査して、駆除や発生しない対策をするなどの対応をとることが重要だ」と話しています。
そのうえ、「熱帯地方で大規模な流行が続いているため、日本国内のどこでも毎年夏には小規模な流行が繰り返されるおそれがある。しかし、デング熱はほとんどの場合、1週間ほどで治り、後遺症も残らない。まれに重症化することはあるので、高熱や関節痛、発しんなどの症状が出た場合には、早めに病院に行って治療を受けてほしい。十分な知識を持って適切な対応をしてほしい」と話しています。

NHK NEWSWEBより(後半引用)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140829/k10014194771000.html

デング熱 都が蚊の調査強化へ
8月29日 17時42分

感染拡大の可能性は
デング熱はヒトからヒトには感染せず、蚊がウイルスを媒介します。東京都によりますと、蚊が感染者の血を吸ってからヒトにウイルスを感染させる能力を持つまでに1週間ほどかかるということで、3人が蚊に刺されたのは今月中旬とみられることから、ウイルスを媒介した蚊は今月の初旬に最初の感染者の血を吸ったとみられています。
蚊の成虫の寿命は1か月程度とされ、都ではウイルスを媒介した蚊は、すでに死んでいる可能性が高いとみています。また、生きていた場合でも、蚊の活動範囲は半径50メートルほどとされていることから28日の駆除で死んだ可能性が高いとしています。
さらにデング熱は、感染者が発熱した状態で蚊に刺されたときにウイルスが媒介されるということで、東京都環境保健衛生課の齊藤祐磁課長は、「3人からさらに感染するようなウイルスを持った蚊が発生した可能性は低く、代々木公園での感染は、これでいったん収束すると思う」と話しています。その一方で、「年間250人程度が海外から帰国してデング熱を発症していることを考えると、代々木公園以外の場所でも感染が起きる可能性があり、蚊に刺されないようにすることが大事だ」として、肌の露出が少ない服を着たり、虫よけスプレーを使うなど、蚊に刺されないよう対策を取ることを呼びかけています。また、齊藤課長は、「発熱した状態で蚊に刺されると感染力を持たせてしまうのでデング熱の疑いがある場合は早めに検査を受け、感染が確認されたら外出を控えるなど、さらに蚊に刺されないようにすることも必要だ」と話しています。

ちょうど代々木公園に宿泊していました...

実は8月8日と9日に代々木公園内にあるオリンピックセンターに宿泊していました。そこから世田谷の日本体育大学に行ってスポーツ資格の講習会を受講していました。
渋谷や原宿駅から歩くのもいいですが結局渋谷駅からバスに乗りました。
まさしく、感染した蚊が飛んでいた時期です。
ちなみに、9月16-20日まで同じ資格の実技研修(前半)がオリンピックセンター内であります。時間があれば公園内をジョギングしようかなと思っていましたが、ちょっと考えてしまいます。

蛇足ですが、7月の末に東京ディズニーランドに行ったのですが体調を崩してしまい、珍しく、帰ってから寝込んでしまいました。
少し発熱があったのと、全身の関節や筋肉が痛かったので、何らかのウイルスに感染していたと思います。対症療法で治しました。
デング熱とは関係ないですが参考までにメモしておきます。

さて、代々木公園は薬剤が散布されて駆除されましたが、大きな疑問が残ります。
今回、発生した人がそれぞれの生活圏に帰ってきたときに、蚊に刺されて、ほかの人に感染していないのかということです。
当然、行動調査はしていると思いますが、感染していても、発生しない人もいると思います。東京都はその可能性は少ないと発表しています。
もしかすると、今後、患者が増える可能性がないとはいえませんし、これまでは、ウイルス検査をしていないだけで、検査をすれば患者だったということも、日本各地で出てくるのではないかと思います。

まあ、重症化しなければ、直るので、あまり神経質になる必要はないと思います。

消費者センターでの対応

消費者センターに相談があった場合は、厚生労働省のHPを紹介して、保健所に相談してもらうことになると思います。
これに乗じた悪質商法が出現しないことを祈ります。
局地的なので、ないとは思いますが、殺虫剤の買い占めまでいくとは思いません。

厚生労働省HP
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http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dengue_fever.html
デング熱に関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dengue_fever_qa.html
各センターで回覧していると思いますが、このQ&Aを一通り読めば、一般の相談者からの問い合わせにもある程度対応できると思います。

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